ラインハット編 その四 ラインハットへの帰還-2
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ブラックジャックをするときの追加ルール。
デッキから最初に引いた一枚を示し、より小さい数字を引いたほうが親となる。
二枚目を引き、勝負開始。勝ったほうは場に出されたカードを全て取り、最終的にその枚数が多いほうが勝ち。
続く親は勝ったほうが行い、カードがなくなるまで繰り返される。
コールにも関わらずカードがなくなった場合、その勝負は引き分けとなり、没収される。
手にしたカードは常に確認することができる。カードの残り枚数を知ることで、勝利への期待値を上げることができる。
勝てば勝つほど有利になるルールであるが、ケインを相手にするときだけは、それほど意味を持つものではない。なぜなら……。
「爺さん、少しは衰えたと思ったんだがな……」
最後の一枚を引いたところでバースト。笑いながらケインはカードを全て取り、カードの枚数を楽しそうに数える。
「ふふん、まだまだ負けられんからな……」
これで三度目の敗北を喫したヘンリー。これまでの勝率も芳しくなく、ケインにブラックジャックで勝てたのは運の絡んだ数回のみだった。
「……にして、何故そんなものを被っているんじゃ? おまけにアルベルト・アインスなどと懐かしい名前を……」
「それはおいといてくれよ。今回ここへ来たのは、爺さんにだけは俺が生きていることを報告しておきたくてな」
「殊勝な心がけじゃな」
「ああ……。爺さんだってわかっているだろう? 父上の死について……」
「ふむ……」
あごひげを撫でながら目を瞑るケイン。彼はすっと頭を下げる。
「お、おい、爺さん? どうした? 眼鏡ならおでこにあるぞ?」
「誰が眼鏡を探してるか、ボケ。……ワシは……、先王の死を……、そして盟友であるパパス殿に濡れ衣を着せ、いまだにぬくぬくと生に興じている……。そのことを恥ておる。本来、お前にあわせる顔など無いからな……」
「パパス殿を陥れるためにか……。となると、ゆくゆくは……」
ヘンリーは目を細めると、部屋の壁にある地図を見る。
「そして今もアルミナの愚行を止められずに……」
「止めたところで汚い生首の出来上がりだ。お前を責めるつもりはないさ。それよりも、今この国を踏みとどまらせているのはケイン、お前のおかげだろう。俺は感謝している」
「まあ、そうだがな……」
「今死ぬか? 爺」
「ふふ、相変わらずだな……」
「ああ」
「して……」
「ん?」
「面を上げろとか言わないの? この姿勢きついんだけど……」
椅子に掛けて面を伏す姿勢。筋張ってきた老体には中々きつく……、
「ああ……、お前が頭を下げるところは珍しいからな。暫く見て目に焼き付けておこうと思ってな……」
三度の負けの憂さ晴らしか、ヘンリーはそれを楽しそうに見ていた。
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「……今日ここに、アルベルト・アインスを東夷隊第三部隊隊長の任を命ずる。これからもラインハットの為に尽力を尽くすよう、心がけよ……」
「はっ……」
エンドール陥落の勲功を称える式典は戦中ということもあり簡素なものだった。
今回の作戦にて大きな役割を果たしたアルベルトは、その功績を認められ、進軍隊の一つを任されることとなる。
その証として緑の三本線の引かれた鞘と儀礼用の剣が、ケインより下賜される。アルベルトはそれを恭しく受け取り、頭を垂れる。
「して……、その方、何故に式典において兜を脱がぬ? 国王不在とはいえ、礼節を弁えぬのは失礼に当たるぞ?」
「はっ、実は先日の戦にて不覚にも顔に傷を受けました。それを恥じ、戒めるためにもこの兜は取れませぬ」
「ふむ、武人の矜持というものか……。ならばそれもよかろう」
しばしの沈黙が訪れる。その間、アルベルトは頭を垂れたまま。その心中は、昨日の件の意趣返しに唇を噛むほどだった……。