#03 研修旅行――二日目-7
「彼女とは、昨晩、なにもなかった。本当だ。神に誓ってもいいし、法廷でも宣誓できるくらいに、まったくといって、――……なかったわけではなく、しかし、きみたちの思っているようなことはまったくないんだよ。なんなら、誰でもいいが、彼女の身体検査でもなんでもして――」
「デリカシイイィィ――――ッッ!ゼロかてめえは!……つか、避けんな!」
「いやだよ、つま先蹴りなんて当たったら痛いじゃないか。知ってるかい?人間には痛覚というものがあって、」
「知ってるっつーの、ドアホ!ってか、アレは秘密でも、それはそれで口にしなきゃいいだけだろうがッ!」
アレとか、それっていうのは、昨晩の飲酒のことだ。
うん、山崎のことではなくて、この能面男もがっちり呑んでいた。
……まあ、私もだけどよ。
しかし、下手くそな岐島の説明と、私の突っ込みが誤解に誤解を招いてしまった。
ザワつく聴衆。注がれる疑いの視線。――どこか照れたような表情の岐島。
「照れんなよ!気味悪いから、ホント!」
私のそんな突っ込みも「あの岐島君の表情を、佐倉さんって読めるんだあー」という、めくるめく誤解の渦に巻き込まれた。
――決めた。私は黙ることにする。
まあ、そんな一幕を見たくもなかったのだろう、削がれた勢いを無理矢理、奮い立たせて山崎が何もなかったように――すでに、山崎が岐島に文句をつけられる部分などはないのだが――、叫んだ。
「――くそ!オマエのせいで、俺たち五人、停学だぞ!どうしてくれるんだよ!」
「どうって……どうもできないね、俺は。一生徒でしかないから。どうにかして欲しいんだったら、佐倉さんのお姉さんにでも頼んだらどうだ?生徒会長だ。もし、会長に直接、会いに行くのが心苦しいというのなら、近しいところで、生徒会役員である林田さんとかでもいいかもしれないがね。とにかく、俺に言われても困る」
「そう意味で言ってんじゃねえよ!詫び入れろってんだ!」
「??……俺が、きみになにを詫びろというんだ?」
「な、なんでもだよ!こっちの気が収まらねえだろ!」
そりゃあ、振り上げた拳を下ろす先を完全に見失ってしまっては、収まりもつくまい。
バカはバカなりに、なんだか可愛そうな存在に見えてきた。
だが、私はそう思っても、岐島に『可愛そう』などとう感性があるかどうかも怪しい。