#03 研修旅行――二日目-23
「ふふふっ」
すると、なにが可笑しいのか林田が吹きだしてきた。
私はムッと、委員長さまを睨む。
「すみません、けど、その……ふふっ」
「笑うんじゃねえよ!」
「はい、いえ。ふふっ、でも、本当に仲がいいじゃないですか、おふたり?」
「ああっ?」
仲がいい。
耳慣れない言葉に、脳裏へ疑問符を浮かべつつ、私は岐島を見上げた。
すると、見下ろしてくる能面の血の気のない唇の端が、わずかに吊られていた。
これは、岐島が機嫌のいいときに見せる顔だ。
「はっ――」
まんざらでもない男の様子に、私も、少しだけ、小さく笑った。
たしかに、仲がいい、のかもしれない。
けれども、親しき仲にも礼儀あり。
岐島の、垣間見せる深部を目にするたびに、私は、決して越えられそうにな境界を幻視してしまうのだった。
――そう。誰にだって、心に不可侵の領域があるのだ。