#03 研修旅行――二日目-22
「く、くくっ……うん、いいね。間違っていたんでしょうか、か」
「あ、の……なにか、可笑しなこと、言いましたか、私?」
「いや。正しいよ、きみは」
「正しい?」
「ああ、正しい。間違っているか、悩むのが正しい」
「は、い?」
「くっ、くくっ」
噛みしめるように、岐島が微笑む。
一方、ポカン、と間抜けな顔を晒す林田。化粧っけのない顔には『理解不能』の四文字がデカデカと記されていた。
だが、岐島との問答にも耐性がついてきたのか、林田の復帰は早かった。
「――正しい、ですか」
「ああ。俺こそ、昨日の、傲慢だと言ったことを謝らないといけないね」
「いえ。それは、いいです」
俯きがちにそう言った林田が、くすり、と笑った。
そして、傍観者であった私の方に目を向けてくる。
「たしかに、私が距離を取っていたのかもしれませんね。岐島くんとも、佐倉さんとも」
「あっ?」
「私、会長に頼まれたんですよ。今回の研修旅行で、佐倉さんの面倒をみてくれって」
「はっ、なんだそりゃ?姉バカにも限度が必要だろ?」
「ふふっ、そうですね。本当のところ、最初、そう頼まれたときは不満だったんですけど――私が面倒を見る、なんておこがましかったですね」
逆に私が面倒を見てもらってますね、佐倉さん共々岐島くんに――、などと不名誉なことを漏らしてくる林田に、私は鼻で笑った。
「おまえはどうか知らねえけどよ、私は別に面倒なんてみてもらっちゃいねえよ」
「――ふぅん」
「オイ岐島?いまの、ふぅん、ってなんだコラ?」
「いや、自覚がないのかな、とね」
「よし、喧嘩だ!」
私は半歩、岐島に詰め寄った。
すると岐島は肩をすくめる。
その反応に、私は「うっ」と息を詰まらせた。なんだかこれでは、本当に保護者と被保護のガキみたいだったのだ。