#03 研修旅行――二日目-21
「――その、昨日は、すみませんでした」
「昨日?」
岐島が首を傾げた。
けれど、私は刹那で把握できた。イジメが云々という、林田の根幹をズタボロにさせた一件のことだろう。
林田は振るわない岐島の反応を受け、それでも続けた。
「あれは、本当に、心からの言葉だったんですか?あの、イジメには理解があった。だから、辛くなんかなかった、というのは?」
「……っふ。林田さん、きみは、どう思っているんだ?」
「っ――」
息を呑んだ林田。
私も、隣の能面男をジッと見上げた。
そうだ。これも、さっきのと同じ。まるっきりウソだってわけじゃないんだろう。けれど、それが全部、心からの言葉か、と聞かれたらどうなのだろう?
あの場には、贖罪の念を抱える相原がいた。そこで岐島が取れる行為として最良――かどうかは、わからないし、根本的な話しになったら偽善でしかないのかもしれないが、それでも上手く治まったのは確かなことなのである。
もしかしたら、昨晩にでも、この可能性を思いつき、だから今朝には全快していたのかもしれない。
「私は――」
林田が、振り返り、少し離れたところで展望する相原を見つめた。
そして、言う。
「間違っていたんでしょうか?」
「っく、くくく……」
「っ?」
「ふ、ぷっ、ははっ、ははははっ」
岐島が、あのときたまに見せる発作的な哄笑を上げた。
賑やかな展望台だったため、それほどには目立ちはしなかったが、それでも、異色の気配を放散している。
けれども、そんなことには忖度せず、岐島が口を左手で軽く抑え、告げた。