#03 研修旅行――二日目-13
「石川町で降りて、どうだい?ちゅう――」
「なんで鎌倉の研修旅行で、中華街って案を思い浮かぶんだよ!」
ツッコムだけだ。鎌倉より北、と言ったあたりで、私はすでに予想していたシークエンスである。
不満そうに唇を尖らせる岐島。
「……失礼だな。まだ、ちゅう、しか言っていない」
「ほおー?じゃあ、なんだ?」
「…………ち、中高大一貫のお嬢様校や山手教会を遠くに眺めつつ、港の見える丘公園へ。行ったついでに小腹も空くころだろうし、近場の食事できる場所――」
「といえば、横浜中華街が近くにあるな。たまたま、じゃなく!」
「……じゃあ、本牧ふ頭を泣きながら歩いて、」
「それも、二番でチャイナタウンに行っちゃうだろ!つーか、難易度高いボケをするな!よく突っ込めたな、私!」
「くっ――」
「……オマエ、普段はキレるけど、飯が関わると、こと幼児退行するよな?」
「一生物の基本的な欲求だからね」
「岐島のは常軌を逸していると思うぞ、私は」
「ふむ……」
岐島が、むっつりと黙り込んだ。
表情から、その考慮の要因を知ることはできなかったが、まあ、今日の旅程を真面目に考え出したのだろう。
――中華街に行きたがったのも、ヤツにとっては真面目な意見だったんだろうけどよ。
そこで、ふ、と岐島が顔を上げた。
「なら、北鎌倉駅に行こうか」
「えっ、と……円覚寺?明月院――のアジサイは、さすがに遅いですし……」
林田が疑問符を浮かべつつも、無難な合いの手を入れた。
ふるふると首を左右に振った岐島。