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熱帯夜
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二日目-8

「そ、そうですか?」
「うん。勝手知ったる感じで」
「ははは…」

そりゃ知ってるって。
俺ん家だもん。

「いいの?人のうちこんなに漁っちゃって…」
「いーのいーの」

この人は鋭いんだかそうでないんだか。
人ん家に窓から入ったくせに今になって心配したり…


母さんが飲んでる姿を思い出しながら、今何を出したら不自然じゃないかを必死に考えた。
つまみ?
チーズとか食ってなかったっけ。それかイカとか…

「あ、何もいらないよ。おつまみ買ってきたし」
「あ、そっすか」

助かった!

「それにそんなに人ん家を漁られると逆に申し訳ない」
「はは…」

だから俺ん家なんだけどね。
こんなに好き放題やってる姿を見てもまだ疑わないのかよ。

「はい、あなたの分」

再び渡された缶ビール。

「どうも」

一応受け取って、とりあえず飲むフリをした。

「奢りだからね?味わって飲みなさいよ」
「…はぁ」

さっき見た仕事帰りの制服姿とはまた違う雰囲気。
制服の時は働くお姉さんって感じだったんだ。眼鏡かけてヒールの靴なんか履いちゃって、颯爽としててちょっと格好良かった。
今はコンタクトにしたのか眼鏡をかけてない。ふわふわしたチュニックにレギンス。同じクラスの誰かがレギンスは色気がなくて嫌いって話してたけど、全然いいじゃん。むしろ好きだ。
それが誰かの為のおしゃれだと思うと腹立たしいけど…

「あなたは寂しくないの?」

突然放り投げられた質問の意味が分からなくて首を傾げた。
寂しい?
何のこと。

「奥さんに置いてかれちゃったんでしょ?」
「あ―…」

その設定もうやだな。
ホントの事話しちゃおうか。昨日ついたばっかの嘘だし、まだ許される範囲内だよな。

「その事ですけど――…」
「あたしも置いてかれちゃったの」
「…え?」
「いつもそう。仕事忙しいからって、置き去りにされる。今日なんて待ち合わせ場所に着いた瞬間に会社から呼び出しされたんだよ!?ひどくない?」
「…そっすね」
「傷を舐め合うとかじゃないけど、あなたなら分かってくれるんじゃないかと思ってさ」
「あ、いや俺は――…」
「お互い頑張ろうね」
「…………………はぃ」

言えねーっ
励まされちゃった!
同士みたいになっちゃった!
俺全然寂しくないんですけど!むしろ気楽なんですけど!!
頑張る要素ゼロだし、そもそも悩みゼロだし!


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