ラインハット編 その三 ポートセルミの砂浜で-2
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ブラックジャックの台へとやってきたヘンリーは、暫く見物に勤しんでいた。
その台では四人の客がおり、皆そこそこの勝ち負けをしていた。中盤から一人がやや勝ち始めたが、それもカードの配られ方によるラックというものだろう。
その流れでも負けが込んできた一人が席を立つ。そこへヘンリーが一枚のチップを見せながら言う。
「俺も運試しをしたいんだが、受けてくれないかい?」
本来なら場に参加するためにアンティを支払う必要がある。さらにコール料がかかり、試合の流れによっては他の客のレイズに付き合う必要がある。
彼の持つ百コインのチップでは、アンティを支払った後のコールができない。
「はっは、面白いな坊主。ちょうどいい、張りな」
優勢の男は快勝気味な情勢に笑いながら百コインのチップを場に出す。他の二人も通常より安いレートにそれほど抵抗は無いらしく、それに続く。
チップが出揃ったところでカードが配られる。
勝ち気味の男が親となり、一枚目が七。順に八、五、そしてヘンリーは七と四。
親はそのままステイし、続く男たちが一枚もらい、顔に手を当てる。続く男もそれにならう。それが駆け引きによる演技でないことぐらい、彼らから漂うアルコールで分別できる。ヘンリーは視線を右上に上げてしばし考えこみ、「コール」と告げる。
スペードの六がきたところで再び考え込む。そして再び「コール」。
配られたカードはクラブの二。まさに今の自分に似つかわしいと笑いつつ、ヘンリーは頷く。
そして続くオープンの掛け声。
親の十八を前に、男二人はバーストで続く。そしてヘンリーは余裕を持って手札を見せる。
「はは、ついてるな……」
そう言って四百コインまで手にするヘンリー。
「それじゃあ失礼……」
席を立とうとした彼に親の男が声を掛ける。
「おい、勝ち逃げする気か? もう一勝負しようぜ! 青二才」
ヘンリーは参ったなとばかりに髪を掻き、言われるままに座る。
「見ての通り、俺はこれしかないんだ。だから……」
「ああいいだろう。百コインのみで勝負だ」
かっかし始める男にヘンリーは「おてやわらかに」と済ました態度。
ディーラーはなれた様子でシャッフルし始めた……。
親の制限と男二人のバーストの告白。十七以上なら負けることはなく、手札が十一スタート。見物中ずっとカードを記憶していた彼は、おおよその見当をつけて二枚コールをした。
ヘンリーの初陣の勝利は約束されたものだった。そして続く勝負も……。
カウンターで肩を落とす男が居た。
「やあ兄さん、ツキはどうしたんだい?」
ヘンリーはその隣に座り、そっと肩を叩く。
「はは、どうやらあんたに乗り換えたみたいさ」
力なく笑う男は、先ほどまでルーレットで快勝を続けていた男。
「そんな日もあるさ。これは俺のおごりだから飲んでくれ」
ヘンリーはバーテンにビールを頼むと、やや盛り上がったコースターと一緒に勧める。
「ありがとよ、兄弟」
「お互い様さ……」
ヘンリーは十分に温かくなった懐を抱え、酒場を出た……。