ラインハット編 その二 奴隷王子-10
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波に揺られる不安な感覚と、ごぉーという水の流れる音。タルが急に向きを変えたと思ったら、不快な無重力に包まれる。
せいぜい三十秒といったところのはずが、狭く黒いだけのタルの中、時間の流れが緩やかに感じられる。
海面にぶつかったらどうなるか? 二重のタルには緩衝材の布切れとリョカの防壁魔法スカラが掛けられているが、万全とは言いがたい。
もし、着水の衝撃でタルが砕けたら?
その不安は、神殿の奉仕者として緩やかに死ぬことと天秤に掛けたとき、どちらに傾くかわからない。
直近の今だけを見れば、明日に怯えて眠りに着くことのほうが楽かもしれないが……。
「横暴なる風よ、一塵の刃となり、かのものを切り裂け! バキマ!」
誰かの声が聞こえたような気がしたが、着水の衝撃で気を失うヘンリーにそれを知る術はない……。
続く