続・幻蝶(その2)-7
ヤスオに呑まされたあの液体だろうか…どろりとした液体が、私のからだの隅々を支配していく
ようだった。無数の毒蛇が私の臓器と肉体を貪るような淫靡で、苦痛に溢れた欲情が私の性器を
徐々に深く充たしていく。
液体は私の皮膚の細胞のひとつひとつに滲み込んでいくのだ。それは、もしかしたら私がずっと
求めていた欲情なのかもしれない…。
ヤスオが手にした銀色の長い針が、キラキラと光沢を放っている。その針の先端が、私の乳首を
なぞり、なめらかな腹部の窪みから少しずつ陰部へと向かっていた。
針の先端が淫唇に触れる…そのとき、ヤスオが笑った。
いや…いやよ…やめて…声にならない呻きが私の中で響く。そして、少しずつ針が私の陰部の割
れ目の奥深くに突き刺さっていく…。
あのとき、気を失ってからというもの、私は昏々と眠り続けていたらしい。
私はローマの病院に入院していた。あれからどうなったのか…地元の警察があの館に入ったとき
には、すでにヤスオはいなかったらしい。ヤスオは、ある猟奇事件に関わった疑いで取り調べを
受けていたらしく、数人の警察官がたまたま館を訪れたとき、私を発見したということだった。
窓からは、抜けるような青い空からふりそそぐ強い光の中に、サン・ピエトロ寺院の伽藍が遠く
に見える。窓の傍に立っている男は、トモユキだった。
「…やっと気がついたか…よかった…危ないところだった…警察がもう少し君を発見するのが遅
かったら、命を落とすところだったよ…きみが事件に巻きこまれたらしいとロンドンにいた僕に
連絡があってね…すぐ、ここまでやってきたよ…無事でよかった…」
トモユキの日焼けした懐かしい顔がそこにあった。
「…ヤスオ…ヤスオは、どうしたのかしら…」
「…警察は一応、きみの殺人未遂の疑いでヤスオを捜しているらしいが、彼はその後、見つかっ
てはいない…別の猟奇事件の件もあるが、まだ容疑は固まっていないため、警察もどこまで本気
で彼を追っているのかわからないね…」
あの館にあったS…修道会のサフラーナ修道士が書いたと思われる書物は、すでにヤスオによっ
て持ち去られたらしい。ただし、あの書物の最初の数ページだけが、書物の本体から外れ、残っ
ていたということだった。
鑑定の結果、その書物が当時のものであることに間違いがないということだった。
追伸…
ロイター通信の記事…
「…数百年前の完璧な肉体を保持したミイラが、M教会地下墓地で発見されたことを、読者は記
憶にあるだろうか…。
そのミイラ化を施した人物が、S…修道会サフラーナ修道士であったこと…そして、彼はそのミ
イラ化の方法を記した書物を隠蔽したまま、この世を去ったことをここに記した。
最近、ローマの教会筋により、ある事件をきっかけにその書物の一部が見つかったと発表された。
ところが、驚くべきことに、見つかったサフラーナ修道士が書いた書物の一部の鑑定から、彼が
イタリアルネサンス期の偉大な芸術家であるレオナルド・D・…と、同一人物であることが暴露
され、センセーショナルな話題がローマで物議をかもしている。
さらに明らかにされた事実は、一生涯、結婚をすることはなく、同性愛者であることが密かに伝
えられていたレオナルド・D・……が、ミイラ化を施した人物は、実はサライという、彼がもっ
とも溺愛した美貌の青年であったということである…。
その詳細について、教会筋は、宗教上の配慮により、すべてのコメントを控えている… 」