続・幻蝶(その2)-5
「…ほら、亜沙子さん…蝶を感じるでしょう…」
私の陰部の青々とした地肌を、湿ったヤスオの掌が吸いつくように撫で上げる。秘裂の肉溝をな
めらかな彼の指先がなぞると、私はかすかな嗚咽を洩らした。
「…僕が求めていた蝶をやっと捕らえましたよ…亜沙子さん…あなたが、僕が世界で一番欲しか
った蝶です…僕は高校時代にあなたを初めて見て、蝶を追いかけ始めた。ずっとあなたの中にあ
る蝶を追い続けていた…僕は、捕らえた蝶にいつもあなただけを感じていた…わかりますか…」
仄かな灯りに包まれた館の地下室は、森閑とした静寂に包まれていた。狂気の予感のようなもの
が、ヤスオの物憂い瞳の中に漂いながらも、どこからか甘く懐かしい薔薇の刺から滴る蜜の香り
を運んでくる。
床に膝をついたヤスオは、私の陰部に頬を寄せるように顔を埋めた。彼の冷たい唇を私は秘裂の
えらに感じる。擦りつけられる鼻先で地肌の毛穴の隅々まで嗅がれながら、私の淫唇は蕩けるよ
うに花弁を開き、潤み始めていた。
私の髪の毛がのたうちながら、首筋を揺れる。鎖が軋み、手首と足首を拘束した革枷が強く皮膚
に喰い込む。
どこからか狂おしいほどの情欲がひたひたと私のなかを襲ってくるようだった。ヤスオの呼吸す
る音が、性器の蕾を撫で、空洞の奥深くまで木霊のように響いてくる。
「…ほら…もう、開きかけている…僕の愛おしい蝶が美しい羽根を広げている…」と、ヤスオは
小さく独り言のように呟いた。
陰部の割れ目にヤスオの視線が忍び込み、私の性器に執拗に絡んでくる…。私の中の肉襞がまる
で砂がさらさらと音をたてて溶けていく。そのとき、私は子宮の奥で蝶の甘美な息づきを感じた
ような気がした。
「肉欲を封じた人間ほど、美しい死に顔と神に祝福された肉体を残すものはいない…何百年も以
前にサフラーナ修道士が言った言葉です…それは永遠に完璧な美しい肉体です…亜沙子さん…こ
の意味がわかりますか…」
ヤスオは、テーブルの上に置いたフラスコの中の葡萄色の液体を見ながら、傍に開いた書物を
開いた。フラスコの中では、どろりとした液体が洋燈の灯りのなかでつやつやと妖しい光沢を
放っていた。
「…やっと完成しました…サフラーナ修道士は、不思議なものを作っていましたね…肉の欲情の
すべてを人の意識の中に封じ込めてしまう…この液体を飲んだ人間は、からだの内側から烈しい
肉欲を与えられ、最後の快楽に浸り、その瞬間を肉体の美しさといっしょにからだの中に永遠に
封じ込めてしまうのです…
あなたは僕が与えた肉の快感のみを最後に味わい、美しい蝶の羽根を広げたまま、最高の快楽を
性器の奥深くに刻みつける…どうです…嬉しいことだとおもいませんか…」
ヤスオはテーブルの上のフラスコを手にする。