知識と無意識-1
チュチュチュン、チュン…
小さな鳥のさえずりと、締め切ったカーテンの微かな隙間から入り込む太陽の光で朝が来たことを感じとった朝比奈愛梨(あさひなあいり)は、まだ眠いという風に窓に背を向けるように寝返りを打った。
白と淡い茶色で統一された室内は、きちんと整理されていてちりひとつなく綺麗に掃除された床やその他諸々を見る限り、この部屋の持ち主が引きこもりとは到底思えない。
『ん…』
一度微かにでも目が覚めてしまった為に、下半身に感じる張り詰めた違和感。
触れたくない、何もない、気のせい…と、頭の中で繰り返しながら、しばらくの間ベッドの上でじっと収まるのを待っているかのような時間が過ぎる。
『……』
そのうちにのそのそと起き上がった愛梨は、嫌悪感と恥ずかしさに微妙な表情を作りながら、パジャマの下でテントを張るそこへ目をやった。
……こんなのが…あるから……
ぴくん、ぴくん、と動くそれを見つめては目を逸らし、こんなものがあるからいじめられるんだとその複雑な表情に悲しい思いが追加される。
生まれた時からそこに存在していたそれを、小学生まで普通だと思っていた。
中学に入ってプールの授業中、水圧に押し寄せたわけのわからない感覚にその場で白濁を吐き出し、クラスの全員にそれを見られて以来、『ふたなり』は珍しく普通のことではないと彼・彼女らの反応や陰口と共に一気に理解して、翌日から学校へ行かなくなった。
そこから愛梨の引きこもりが始まり、18になった今でもそれは続いている。
海外に長期出張中の両親はのんきで、愛梨の好きなようにすればいいと資金だけは送ってきている為、生活に困ることもなく一戸建てに1人暮らしの状態で、誰に何を言われることもなかった。
『……』
それを見つめるたびあの日のプール事件を思い出し、嫌な記憶だと思いながらもクラスメイトからの陰口や射精を見てあざ笑うかのような表情に、何故だかドキドキと鼓動を早めてしまい…。
『…ふ…、い…だめ…』
気がついた時には、パジャマの上から張り詰めたそこをさわさわと撫でていた。