FULL MOON act5-6
その後、「じゃあ、また…これからもよろしくお願いします」とかなんとか不明瞭な言葉を残して出てきた。
頭では分かるけど、やっぱりショックみたい。タイミングが悪かったかな。
私と伸太が店を出ると、高坂さんが一人で追ってきた。
「室、疲れてるとこ悪かったな」
「大丈夫す。こいつ心配だったんで」
…私のことか。
こいつって。
「…岡田も今日はいきなりすまなかった。これからもよろしく」
そして握手をされた。
そこで完璧に分かったんだ。高坂さんがぎゅって私の手を握った瞬間。
――失恋したって。
「はい、…隠さないで言ってもらえて良かったです」
先輩と後輩の握手だった。すんなり答えられた。少し笑えたと思う。ぎこちなさは感じなかった。
どうにでもなれ、って気持ちは少しあったけど。
「当然だろ」
にこりと笑って高坂さんは店へ戻っていった。
やっぱり……
かっこよかった。
駅へ戻る道すがら、「疲れたな」と伸太が横で伸びをした。時計を見ると12時近くになっていた。
もうそんな時間…。
「…伸太もありがとう」
「別に。大したことはしてないから…腹減らない?」
「え?…まぁすいたけど」
「居酒屋行くか。お前飲めよ」
「…ナニソレやけ酒?」
「失恋酒」
「…うっさいばーか」
アハハと笑った。ちょっと苦い冗談だけど、素直に嬉しい。一人になりたい気もしたけど、伸太なら一緒にいてもいい。
お酒付き合ってくれる友達がいる…。
今日は悲しくて泣いちゃうから、一緒にいてくれる。嬉しいし、悲しいし、切ないし…。
色々と複雑だけど、クシャッと笑う伸太の顔を見て何故だか安心した。
(…いい友達に恵まれたな。私は…)
(…ちょっと頑固だけど!)
なんて心で少し悪態つくことも忘れない。
「今日は飲むから、介抱してね」
「おーまぁ仕方ないな」
伸太はそんなこと思ってなさそうに言った。
そしてまたいつもの笑顔でクシャッと笑った。