異界幻想ゼヴ・エザカール-17
「ジュリアス、どうする?」
『やるんだったらこっちに深花が欲しいな。負けるのは面白くない』
答を聞いて、フラウは唇を尖らせる。
「やぁよ。今日のパートナーはあたしなのに」
ジュリアスが、くつくつ笑った。
『じゃ、今日の神機訓練はこれでおしまいと。俺はカイタティルマートと組んでおくから、先に上がってていいぞ。深花、打撃戦だけなら体にあまり負担はかからないだろ?』
「うん。大丈夫だと思う」
「念のために、少し遅らせておくわ」
フラウはそう請け負うと、深花と一緒にマイレンクォードから降りた。
「お疲れ様……とはまだ言えないけど、まずは汗を流しましょ」
マイレンクォードに代わってカイタティルマートがレグヅィオルシュと殴り合い始めたのを一瞥すると、フラウは深花を伴って歩き出した。
「そういえば……フラウさんの部屋って、どこでしたっけ?」
フラウの横に並びながら、深花は問う。
曹長待遇に落ち着いた深花自身は女性下士官寮の個室をもらったが、少尉待遇のフラウは士官用の個室をもらっているはず。
今までは帰宅時間などがまちまちで合わなかったため、フラウがどこに住んでいるのか深花は把握していなかった。
「あたし?女性士官用の寮なんてないから、女性兵士用寮の最上階の半分を借りてるのよ」
「あ……」
そもそも基地内に女性の姿が少ない事に、深花は思い至る。
身体面の問題があり、働き口として兵士を志望する女性はあまりいない。
いてもある程度年を重ねた女性の上、内勤希望でたいていは事務や食堂に回される。
絶対数が少ない所に加えて内勤に行きがちなので、深花やフラウのように現役で戦う女性の数はとにかく少ないのだ。
「中尉以上の女性って、いましたっけ?」
「あたしが知る限りでは、いないわね」
「ふへー……」
そんな事を話しているうち、二人はフラウの住む寮へたどり着いた。
そのまま二人で、風呂場へ直行する。
風呂場は女性兵士用の大部屋とフラウ用の小部屋があり、二人はもちろん小部屋に入った。
脱衣所で服を脱ぐのに深花が手間取っているうちに、フラウはささっと脱いで浴室へ入った。
少し遅れて、深花も入る。
フラウは乳白色に濁る洗浄料を浴槽に入れ、先に浸かっていた。
……寮へ来てから、フラウはずっと無言である。
深花は、ティトーの言葉を思い出していた。
『そんなに緊張するな。ずっと無言で、分かりやすいったらないぞ』
レセプションの会場入りをする前に、ティトーがフラウにかけた言葉。
緊張すると、フラウは無言になるらしい。
ここは自分が!などとおこがましい事も言えず、深花はとりあえず湯舟に浸かって全身を洗った。
「あの……フラウさん」
しばらくしてのぼせそうになったので、深花は湯舟から立ち上がった。
「先に上がっ……」
「待って」
背後から、フラウが近づく。
「フラウさ……」
腕が伸びてきて、深花の体に巻き付いた。
当然、二人の体はくっつき合う。
背中で、大きな乳房が潰れた。
腰にも、妙な圧迫感が生まれる。
「あたしがジュリアスに引き合わされた理由はね、あたしがマイノリティだから」
声に、震えが感じられた。