異界幻想ゼヴ・エザカール-16
マイレンクォードに乗ってすぐ、神経が接続された。
フラウは……まるで胸像のように、へそから下が肉に埋もれている。
へそから上は露出している訳だが、深花はその豊満な胸に視線が吸い寄せられる。
張り・艶・色・形……全てにおいてうらやましい、ボリュームのある乳房だ。
思わず、己が胸を見下ろす。
形はいいと思うが……大きさは、かなり負けている。
別にティトーにもジュリアスにも小さいと文句をつけられた事はないが、コンプレックスが頭をもたげそうだ。
『あー、本日はマイレンクォードとレグヅィオルシュで組み手を行ってもらう。フラウ、限界以上の力の加減を察しておくように』
ティトーの簡潔な訓示が終わると、二人は組み手を始めた。
圧倒的な攻撃力を持つレグヅィオルシュと、強固な守りを持つマイレンクォード。
通常ならレグヅィオルシュが有利なのだが、今回は深花が乗っている。
「凄い……」
フラウはただ、感心するばかりだ。
「こんなに差が出るなんて……」
一撃打ち込む度に、向こうでジュリアスが唸っている。
ジュリアスが唸るほどの痛撃を浴びせられる時点で、フラウには驚くべき事態だった。
「……まだ大丈夫かしら?」
フラウの声に、深花は頷く。
「カイタティルマートは動いてませんし、大技も出てません。平気ですよ」
深花の保証を受けて、フラウは剣を召喚した。
負けじとジュリアスも、得物を召喚する。
二機が派手に剣を打ち合わせ始めると、離れた場所から様子を眺めているティトーは低く口笛を吹いた。
「レグヅィオルシュ相手に善戦してやがる。やっぱり、深花が乗ると違うなぁ」
重い一撃を受け止めながら、ジュリアスは唸る。
「くっそー!深花が乗ってればなぁ!」
いつもならばあまり苦労しないマイレンクォード相手に思うように攻められず、ジュリアスは非常に悔しい思いをしていた。
深花が乗っていなければおそらく負けるだろうし、負けた所で給料の査定に響いたりはしない訳だが、勝てるなら勝ちたいのだ。
「でもやっぱり、いい動きをしやがる……ミルカがいない間のパイロットの苦労が、しのばれるってもんだ」
叩き込まれた一撃をしのぎ、打ち返す。
返された勢いで一歩下がったマイレンクォードは……水を召喚した。
その先端は鋭く尖り、機体を貫く気満々である。
「んげっ!?」
ジュリアスは慌てて、機体の周りに炎を呼び出す。
あんな物に貫かれて喜ぶ趣味はない。
「おー。なかなかなかなか」
炎の鎧は水の錐を防ぐのに効果的ではあるが……深花が乗っているかいないかで、一度に召喚できる量には差がある。
炎をかすめる度に先端の失せていく錐だが、マイレンクォードの背後にはたっぷりの水が控えていた。
対するレグヅィオルシュは防戦一方で錐を捌くのに必死であり、新しく炎を召喚する余裕がない。
「深花とマイレンクォードも相性がいいなぁ……」
ティトーの脳裏には、それぞれの神機を中心とした戦術が組み上げられていた。
「……おぉ」
とうとう水の錐が炎の鎧を突破し、レグヅィオルシュの機体を貫いた。
本当に傷つける気はないから守りを突破した時点で錐状ではなくただの水になっているが、レグヅィオルシュは痛そうな振りをする。
「……あら。勝っちゃった」
心底意外そうに、フラウが呟いた。
「組み手で、あたしが勝つのは珍しいんだけれど……」
「出力の差って、凄いですねー」
のほほんとした声で、深花は答えた。
「あと何戦かしときます?」
深花の質問に、フラウは首をかしげる。