異界幻想ゼヴ・エザカール-14
「精霊の元に直接跳べるのは、最高位の特権だ。受け入れてもらえないんじゃないかとか、変な心配はしなくていい」
「は、はい」
深花は人の間を縫って、壁の前へ行く。
「や……」
手を前に出した瞬間……壁に手が触れる直前に、ラアトが叫び出した。
「止めろーーーっ!!バランフォルシュ様を穢すなあぁーーーっ!!」
「うるせぇよいい加減!」
堪忍袋の緒が切れたか、ジュリアスがラアトの側頭部を殴りつけた。
「てめえが深花を受け入れたくなくても、バランフォルシュは受け入れてるんだ!そこんとこはさっさと認めろ!」
もっと殴りたそうな顔をしていたが、ジュリアスは手を止めた。
「深花、さっさと跳べ!ラアトの事は気にするな!」
「う……ん!」
思い切って、深花は手を触れる。
金属的な表面なのに……深花の手が、ずるりと飲み込まれた。
体全体が、壁の中に飲み込まれていく。
「ひ……っ!?」
抗う術もなく、深花は壁の中に沈んだ。
様々な光が、周りで弾ける。
五感が意味をなさない。
光の奔流が収まった時、深花の体は白い空間の中に浮いていた。
「とうとう、来てしまったのですね」
声は、遥か上から降ってきた。
「我が愛し子よ」
「バランフォルシュ……様……」
体に、光が纏わり付く。
まるで、深花を抱き締めるように。
「今のあなたに話せる事は、多くない。しかし、預かったメッセージとあちらの様子を見せましょう」
深花の前に、映像が映された。
おそらく、リオ・ゼネルヴァを旅立つ直前のものだろう。
祖父と一緒に写った写真より幾分か若く見える祖母が、目の前にいた。
「あなたは私の子……孫かしら。それとも、もっと先の子孫?いずれにしろこれを見ているという事は、私の血がリオ・ゼネルヴァに戻ってきてしまったという事なのでしょうね」
祖母は、悲しそうに目を伏せる。
「……罪を背負わせてしまって、ごめんなさい。つらい目に遭わせてしまって、ごめんなさい。けど私は、そうしなければならなかった……!」
「おばあちゃん……」
「私もバランフォルシュ様も、あなたを愛していますよ。勝手だけれど、あなたが健やかで幸せに過ごせるように祈っているわ」
何か言いたげに開いた唇は、真一文字に結ばれた。
「……さようなら」
祖母の映像が、消えた。
「次は、あちらの様子を」
バランフォルシュの声と共に人影が二つ、深花の前に現れる。
金色の大男と、ピンクの少女。
天敵の二人が目の前に現れたため、深花は驚いてもがいた。
「これはただの映像」
バランフォルシュの声が、優しく深花をなだめた。
「実際の距離はもっとずっと離れていて、互いに気づいたりする心配はない」
「は……」
恥ずかしくなって、深花は赤面する。
二人は、じゃれあっているように見えた。
しかし深花は、赤い頬がさらに赤くなるのを感じる。
あぐらをかいた大男に、大男に抱き着いた少女。
どちらも、全裸だった。
まるで家族に甘えているような無邪気な表情とは裏腹に、少女の体は大男に密着して全身を擦り上げている。