初夏のすれ違い / コトバ編-4
「…お前、好きだなぁ、バイク乗んの」
「…っ、意地悪、分かってるクセに」
かわしても亜紀子は食い下がってくる。
「…言っとくけど、今日は優しくなんてできねぇぞ」
「い、いつもじゃん、そんなの」
亜紀子はずいぶんと必死だ。
更に思い出すのは、数日前の電話で亜紀子が漏らした、兄が旅行中ということ。
…―つまり、今の俺はアニキの代わりか…
とは言え、亜紀子から誘ってきたのはありがたかった。
性欲処理に相手を使うのはお互い様か、と苦笑してしまう。
「口答えするなら、"アレ"使うぞ」
「…っ!
…ごめんなさい…」
先程得たばかりの新しい弱味を、背中越しに放ってから歩き出す。
冗談で言ったつもりなのに、追いかけてきた声は申し訳なくなるほど揺れていた。
バイクには、ちゃっかりヘルメットが二つ付いている。
それを見ても、いつもなら「サクの方こそそのつもりだったんじゃないの?」くらい言ってきそうなものなのに、亜紀子は俯いたままだった。
薄いシャツだけの亜紀子に上着を貸してやり、だいぶ慣れてきた二人乗りで移動する。
その道すがら、さすがにサクは反省していた。
しかし…
こちらも馴染み深くなってきたいつものラブホに入り、亜紀子をベッドに押し倒すと、そんな想いはあっと言う間に霧消していく。
「…っん、はぁっ…」
サクの首に腕をまわし、いつもより積極的に舌を絡ませてくる亜紀子。
すっかり欲情しているのは明らかだった。
服を脱がせ、首すじに噛みつき、舐めまわすとビクビクと身悶えしている。
しかし、くちびるは半開きなのに、目が、しっかりと閉じられているのだ。
…―頭ん中では、アニキとヤッてるっての!?
サクは舌打ちしそうになるのをこらえ、代わりに必要以上の力で亜紀子の両手首を枕の上でまとめる。
もう片方の手でアゴをつかんで上向かせると、亜紀子は怯えた目で見上げてきた。
久しぶりのレイプまがいな体勢に、秘めていた独占欲が湧いてくる。
「…いいか、目、つぶんなよ」
亜紀子が、?の表情で応える。
彼女はもうほとんど半裸の状態だったが、アゴを解放してボタンやブラを外しながらサクは続けた。
「今日は、ずっと、俺の目を見てろ」
ゆっくりと説き伏せるように言うと、亜紀子はこくんと頷いた。
敏感になっている肌をわざと煽るように服をはぎ取っていくと、亜紀子のほおが赤くなっていく。
いつもは性急に事を始めるから、じっくり目を合わすと緊張が高まっていくようだ。