1・サイテーなハジマリ-1
たまには違う道を通ってみたくなる時がある。
いつも歩いている道に飽きた、或いはたまには違う景色が見たい、など・・・
そう思った理由はそんなに大それた事じゃ無い。
運命を変える程の出来事は、もしかしたら小さな変化がその始まりなのかもしれない−
「ん?」
会社からの帰り道、いつも曲がる角を曲がらずまっすぐ歩いていた。
すると爪先が何かにぶつかったので見てみると、ゴミ捨て場の前に何やら小さな箱が落ちている。
指輪のケースかオルゴールくらいの大きさでピンク色の、小さい女の子用の玩具の様に見えた。
「なんだ、こりゃあ」
たまに変わった物を拾ったりする事はあるが、わざわざ持ち帰り自分の物にした事は無い。
交番に届けようと思ったが帰り道の途中には無いし、こんな物持ってこられても困るだろうと思い、止めた。
そして、特に深く考えずにスーツのポケットに入れてそのまま帰宅した。
何で持ち帰ったのか分からない。そのピンクの箱に惹かれた、っていう訳でもない。
ただ何となく、自分の物にしてしまっただけだ。
もう大人と呼んでもいい歳の男がなぜ、と自らに問い掛けたが答えはやはり何となく、だった。
泥棒、になるのか?
取り敢えずそのピンクのオルゴール、によく似た箱を机に置いた。
独身の男の散らかった部屋には、やっぱりというか当たり前というか、似合わない。
物を拾うなんていう気紛れもたまにはあるだろうな。さあ、風呂に入るか。
スーツの上着を脱いでハンガーにかけ、ワイシャツのボタンを外しながら自然に欠伸が出た。
『よう。おじゃまします、っていうのか?人間の家に入る時は』
閉じた目を開くと、何やらピンク色の鳥がパタパタと羽ばたいている。
目を擦ってみたが見間違いではない。確かに、その鳥は俺の目の前で飛んでいた。
「・・・おかしいな、今日はまだ飲んでないぞ。鳥がしゃべってる」
『おれはラウムだ、鳥って名前じゃない。あと、こっちでいうカラスっていう種族だ』
ちょ、ちょっと待てよ。
うちのアパートは鳥くらいなら飼ってもいいと聞いた。
だが俺の部屋はペットなんていないはずだぞ。
『さっき箱を拾ったでしょ?あれ、おれ達の寝床なの。驚かせてごめんな』
机に置いた箱を見たら開いていた。
さっきは開けようとしてもびくともしなかったんだが、どういう事だ?
『おいおい、いつまで寝てんだよ。雄が見付かったぜ』
戸惑う俺を尻目にそのカラスは部屋の中を飛び回り、ベッドの方に移動した。
するとそこには見覚えの無い女の子が横になっていた。
変な色のカラスにも驚いたが、いつの間にか自分のベッドに人が寝ていたのはもっと驚いてしまった。