愛しのお菊ちゃん12-2
何処だがよく判んない道だけど、僕は夢中で走った。
走っても走っても涙が止まんないけど。
僕は夢中で走った。
ズサァァァ――。
「うわっ!」
そして派手にスッ転んだ。
「い…いてぇぇ…」
その場にしゃがみ込み、ズボンに血の滲む膝を押さえる。
「ひん…ひ…ひっく…うっ…うわぁ〜ん」
僕はその場に座り込んだまま…。
声を上げて泣きじゃくっていた。
情けないけど…。
今の僕には泣きじゃくるしか出来なかった。
いくら泣いたって…お菊ちゃんへの思いは断ち切るなんて出来ないけど…。
ただ泣きじゃくるしか出来なかった。
「傷の手当てをいたしましょ…」
いつの間に僕の背後に立っていた鵬蓮さんが憐れむ様に声をかけてきた。
僕とお菊ちゃんの仲を引き裂く存在としか思えない鵬蓮さんだけど…。
何故か…この時の声は妙に優しく感じられた。
結局、この日…お寺で行われたのは擦りむいた僕の膝と片頬の傷の手当てだけだった。
昨日よりどんよりとした気分で家に帰ってきた僕。
今日もお母さんはパートのはず。
けど…いつもみたいチャラけた挨拶は出来そうない。
いや…頑張ってチャラけなきゃ!
お菊ちゃんが心配しちゃうよ。
僕は家のドアの前で目尻と心に残っていた涙をゴシゴシと拭くと…。
「ただいまー!」
渾身の笑顔で自分の部屋に入っていった。
「あっ!お…お帰りなさい…ませ」
部屋に入るとこの前、買った下着姿のお菊ちゃん。
脱いだ着物で自分の身体を隠す様にしてオタオタしている。
お菊ちゃん…自分の下着姿を鏡でチェックしてたみたい。
よし!
「お菊ちゃん!みんなに見えるままで下着買いに行こ!いや…下着だけじゃなくて服も!」
満面の笑みを湛える僕。
僕の勢いに呆気に取られた感じのお菊ちゃん。
「な…なれど…」
エロ可愛い下着姿を着物で隠したまま…まだまごついている。
「いいから…いいから…」
僕は笑いながら、お菊ちゃんの着物を着せ始めた。
みんなに見える姿のお菊ちゃんの手を引いて、僕たちは駅に向かった。
着物姿のお菊ちゃんを物珍しげに見ている人もいるけど。
そんなの構うもんか。
僕に手を引かれて歩くお菊ちゃんも何か楽しそう。
そのお菊ちゃん。
「俊樹さま?」
「なあに?」
「部屋ではお聞きする時間が無かったのですが…頬の怪我、如何なされたのでございますか?」
心配そうに聞いていた。