ラインハット編 その一 オラクルベリーの日々-1
ラインハット編 その一 オラクルベリーの日々
キャラバン隊が草原を行く。オラクルベリーからアルパカを目指す定期の商隊で、農業主体の地方に鉄鋼業の恵みを届ける大事なラインだ。
これまでサンタローズの村の北にある洞窟からの供給で間に合わせていたのだが、三年前にラインハット国による侵攻で村は滅ぼされてしまった。そのため、オラクルベリーの商家が陸路での交易路を拡充し、今に至る。
最近は昼夜を問わず魔物が横行する。今、草原を行くキャラバン隊もその煽りを受けていた。
赤く大きなねずみの群れが荷馬車に追いすがる。振り払おうと鞭を振るうが、積載量をはるかに越えた積荷に馬力が出ない。
「ちくしょー! ねずみが鋳物をかじるってのかよ、パンでもまいて追い返せ」
手綱を握る男は苛立ち混じりに鞭を振るう。しかし、馬はそれに応えることができず、次第に赤いねずみ――お化けねずみの群れに追いすがられる。
馬車のしんがりで荷物を押えていた男がその煽りに遭い、転げ落ちる。
「商隊長殿、馬車を止めてくれ! 一人落ちた!」
「何言っていやがるんだ。そんなことしたら食い物どころか、俺らまでかじられるぞ?」
後方からの悲鳴に商隊長も悲鳴を上げる。そうしている間も徐々にお化けねずみに追いすがれ、一匹が馬車に乗り上げると、それに続いて雪崩のように押し寄せる。
「うわ、駄目だ! くそ! こいつら!」
箒を片手にお化けねずみを追い払おうとする隊員。しかし、大型犬くらいあるお化けねずみはびくともしない。
「はっ!」
不意に突き出された鉄の昆。お化けねずみはそのまま馬車の外に追い出される。ひるまず上ろうとするねずみは容赦なく振り払われる。
「このまま走ってください!」
青年の声を聞かずとも商隊長は手綱を緩める気配はない。そして青年は颯爽と馬車を飛び出すと、同時に風を操る。
「唸れ! バギマ!」
ごうごうと唸る真空の刃、集団で固まっていたお化けねずみはそれをかわすことができず、血煙を撒き散らす。
混乱するねずみの群れに鋼の昆を振り乱しながら突撃する黒髪の青年。比較的無傷であったねずみもその強撃に打たれ、戦意を喪失したものから散り散りに消えていった。
「うぅ……」
馬車から転げ落ちた隊員は顔を抑えて蹲っており、露出した肌には齧られた痕がいくつ藻見える。
「大丈夫ですか?」
青年は駆け寄り、初級回復魔法を唱える。
「はぁはぁ……た、助かったのか……?」
ところどころ痛ましい傷跡は見えるが、致命傷に至るものは見受けられず、隊員は暫くして自力で立ち上がることができた。
「すまない、リョカさん……」
砂を払い、頭を下げる隊員に、リョカはまだ治療が終っていないと制す。
「いえ、それが仕事ですから」
最近活発になった魔物達。少人数の旅人だけではなく、数人から多い場合十人単位になるキャラバン隊も狙われることが多くなった。そのため、今はどこも傭兵を雇い、護衛に当たらせていた。
そして、リョカもその一人であった。