初夏のすれ違い / カラダ編-7
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翌日。
手に英語のノートを持って、亜紀子は自分の教室へ向かっていた。
結局昨晩、英語は手つかずのまま寝てしまったから。
…―ふぅ、助かった、結衣が英語が得意で。
…ん、あれは…
廊下で、人目も気にせずいちゃこいているのは、KYカップル、もとい、三池コージと太田ヨーコだった。
ナンパ男とミーハー女で、意外と相性が良かったらしい。
ほんのわずかの間だが、三池にまとわりつかれていた亜紀子としては、それを見るといつも無意識に苦笑がこぼれてしまう。
…と、その二人を越えた向こう側から、視線を感じた。
…あ、サク
目が合ったサクは、周りにバレない程度に薄く笑い、軽く肩をすくめてみせた。
どうやらサクの方も、この二人を見て同じことを感じたらしい。
亜紀子も少しだけ、口角を上げて応える。
そのままお互い、会話もせずに自席に戻っていった。
そのことは、もちろん不自然ではないのだ、二人にとっては。
しかし周囲にはそうは捉えられない。
サクと一緒にいた男子の声が、亜紀子の耳に届く。
「サクぅ、お前らドライだなぁ?
廊下のアツアツの誰かさん達とは大違い」
どうやら、彼の目にもKYカップルはうっとおしく映ったらしく、どこか嘲笑の色が混じっている。
「でも実は、お前らツンデレだったりして?
家に帰って、夜中に甘々な電話しちゃってるとか?」
「あ〜も〜、うっせー!
ほら、自分の席戻れよ、先生来たぞ」
幸い彼らとは席が離れていたので、亜紀子は会話に巻き込まれずに済んだ。
あんなこと言われたらどんな顔をすればいいのか分からない。
ケータイの番号も、誕生日すら知らないと言ったら驚くだろうか。
あくまでも、付き合っているフリをしているだけなのだから。
…―だって、サクがあたしを抱くのに都合が良いのと、この間サクが、バスケ部の前で「コイツは俺の」なんて言っちゃったから…
利便性のために仕方無くフリをしている。
だからこそ、用が無いかぎり二人はほとんど話もしていない。
でも…
…―さっき廊下で、目で会話しちゃったよね…
そう、たまにああして目線が交わる。
さっきのように視線を感じることもあれば、いつもクラスの中心にいるサクやその周囲へ亜紀子の目が向いている時に、ふとサクがこちらを見やることもある。
そしてなんとなく、お互い考えていることが読み取れるのだ。
それは、サクと関係を持つようになってからだったが、"付き合ってることにした"後からは、それが増えてきている。
だから、周囲には会話が無くドライだと思われているのかもしれないが、亜紀子からすればそれ程でもないのだった。
ただ気になるのは…
サクからの視線を感じることが多いのだ。
特定の誰かとこっそり意思疏通する事自体は、くすぐったくて楽しいのだが、自分を脅す相手だと思うと複雑な気持ちになってしまう。