心細いときには-1
入院はツラい。怪我で入ったなら尚更だ。食事制限される訳でもなく、痛めたトコロ以外は至って健康だからだ。
今、僕はそのツラい状況にいる。両脚を固定され、寝返りすらできない。しかも2人・4人部屋も空きがなかったらしく、個室に入れられてしまい、話し相手もいない。非常に退屈で心細い日々を過ごしている。
コトの始まりは梅雨真っ只中の、ある日の昼休みだった。同僚の何人かと昼食をとりに歩きで出て、信号待ちをしているといきなり赤いスポーツカーがこっちに向かってきた。逃げる暇(いとま)もなく、連れ立っていた女子社員数人の盾になるのが精一杯だった。その後、今に至っている。
「でも、よかったじゃない。骨折だけで済んで。内臓破裂とかじゃないんだし、ウチらやっと後輩の指導とか任されるようになって、中井も最近忙しかったんだから、ゆっくり休んだらいいよ」
川北悠子。僕と同期で、お互いに出身も大学も地方でそこから東京に出てきたもあって、同じような5、6人の仲間とよくランチをいっしょにしたり、飲みに行ったりする仲だ。いっしょに信号待ちをしていたのも、大体いつものそのメンバーだった。今まで二人で会うことは今までなかったが、なぜか毎日のように仕事終わりに、または休日でも見舞いに来てくれている。
川北に対する僕の印象は最初から今まで、サバサバしたハキハキしたコって感じで男友達に近い感覚だった。
実際、服装自由のウチの会社では、ほかの若い女性社員はフレアかタイトなスカートで、ばっちりメイクが多い中、川北はパンツやジーンズスタイルが多くて、化粧もカラー入りのリップを塗っているぐらいだった。
入院から2週間ぐらい過ぎた日曜の午後。栄養バランスのとれた、しかし物足りない食事を終え、スポーツ雑誌でも読もうかと思ったときに川北が来た。
「はっ」とした。淡いピンクのブラウスに、花柄セミフレア。メイクももバッチリ決まっている。川北のことを初めて女性として意識した瞬間だった。
「はい。これ。誕生日おめでとう」
あんぐりと口が開いていた僕に、いつもと違う川北が四角い箱を差し出した。その手もいつもと違っていて、控えめな色だがネイルが光っていた。
「あ、あぁ。さんきゅ。そ、そっか、今日僕の誕生日だったんだ」
口ごもりながら僕が返す。
「……あとさ、もういっこプレゼントあるんだけど」
珍しく川北がモジモジした感じで言った。
「中井清雅さん!あなたが好きです!!」
病室で迎えた、25回目の誕生日は人生最高のものになった。