奴隷編 奉仕者-4
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いつものように水を汲み、運ぶマリア。
白い胴衣もだんだんと薄汚れ、櫛も満足に入れられない髪は最近切ってしまった。日々の労働で白い肌も焼け始め、腕もやや太くなる。
初めてここへ来た時のたおやかな雰囲気も消えたが、爽やかさが備わり、破れた胴衣から見える肌に生々しさが見えた。
監視の一人は階段を上がる彼女を見つめ、ゴクリと唾を飲む。
瓶を持つ彼女は水がこぼれないようにと慎重に、気をつけながら歩いているためか、身なりにおろそかになっていた。
やや大きめの胴衣、ほつれも目立ち始め、階段の上から眺めると、下着もつけていない胸元が風の具合によっては覗けてしまう。
目をしばたかせてマリアを見る監視の男。
ここへ来る奉仕者の女はどれも器量悪しの者ばかりで、彼女のような存在は彼らにとっても異質である。夕飯のおかずや労働のサボリを理由に何人かの女奉仕者ととり引きをする監視は多く、その欲望が彼女に向かないはずもない。
ただ、彼女の場合、兄が教団員で、その地位は奉仕者の監視より高い立場にあるらしく、あまり下手に手を出して行為が発覚した場合、監視から奉仕者に落されかねない。
また、労働自体も比較的楽な水汲みとあり、さらに小食であることからサボリや食欲で誘惑することもできない。かゆいところに手が届かない存在なのだ。
そんな鬱憤を抱く監視が下心を出さぬはずもなく、風のイタズラで見え隠れする彼女の胸元を盗み見ていた。
未だ白い肌にふっくらとした胸。手で嗜めばややあまる程度のおっぱいと、小ぶりな乳首。もし彼女が普通の奉仕者なら、何かしら文句をつけて慰みものにしていたであろう。それともか、ひと時のたんぱく質で腰を振ってくれるだろうか? 下卑た妄想をしつつ、彼女が監視の脇を通りすぎようとしたとき、堪えられなくなった手が彼女のお尻に……。
「きゃっ!」
驚いたマリアは胴衣の後ろを押える。と、同時に瓶が落ち、がしゃんと音を立ててその場に水をぶちまける。
「貴様! 教団の財産になんてことをしてくれる!」
結果に驚いた監視は裏返った声で喚き、マリアに鞭を振りかぶる。
「え、だって、私、いきなり……」
お尻を触られて驚いて……。
そう言おうとしたが、振るわれた鞭の音に竦んでしまう。
「なんだ、何があった?」
物音に集まる監視達。その原因がマリアであると知り、ごくりと唾を飲む。
これをきっかけに、この女を……。
下心を抱く監視達はいかに自分の手で罰を与えようかと算段している。
「何を言ってるんだ。マリアが運ぶのを邪魔したのはその監視の男だろう。俺は見ていたぞ。階段の上からマリアの胸を盗み見て、すれ違いざまに知りを触ったのをな!」
そこへやってきたのはヘンリーだった。彼は高らかに宣言し、知りを触った監視の男を指さす。
「な、何を言っていやがる。俺は……俺は……」
しどろもどろになる監視に、別の監視が前に出る。
「同士よ、もしこの奉仕者が言っているのが本当だとすると、貴様は罪を犯したことになるな……」
「なっ、何を……」
「奉仕者、ヘンリーよ、貴様、先ほどの言葉に嘘はないのだな?」
「ええ、俺はこの目で見ていました。水をもらおうと水飲み場に向かいましたところ、マリア……、あの奉仕者の姿が見えず、仕方なく戻ろうとしたところで階下に二人の姿を見たのです。俺は暫く待てば水を飲めると思いこの場で見ておりましたが、その際、この男が奉仕者に劣情を抱き……」
「だ、黙れ黙れ! 同士よ、貴様らこんな奉仕者の言うことを信じるのか? 俺はそんなこと……」
「ふむ。だが、同士がここにいる理由がわからないな。確か同士は神殿上部の監視の担当ではなかったか? ここにいるということは持ち場を離れているということで、それは神殿建設に滞りを起こしかねない重大な罪……」
雲行きが怪しくなることに、尻を触った監視は油汗をかき始める。
というのも、もし罪が認められたら財産の没収と奉仕者へ身分を落すことになる。そして、その財産は他の監視の分け前として再分配されることになっている。
神殿建設の監視など閑職もよいところ。給金も少なく、憂さ晴らしをする場所も無い。せめてもの救いは無駄遣いが減って貯蓄が増えることぐらい。
お金を貯めるということに生きがいを見出す者も居り、監視同士での足の引っ張りあいも起こる。
そして、実のところ、この監視はヘンリーと通じている部分があり、素行の悪い監視を糾弾しては小遣いを稼いでいた。