奴隷編 奉仕者-14
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干し肉で餓えを凌ぎ、苦い野菜で乾きを潤す密航者。
動くこともままならず、おかしな匂いのする草に囲まれる日々は労働とは別の苦しさがあった。
それが一週間ほど続いたある日のことだった。
船が大きく揺れ、ばりばりと木々の折れる音がした。なにごとかと船倉を出る二人。甲板のほうでは船員達の怒声が響く。
「リョカさん、一体……」
怯えるマリアはリョカに抱かれながら膝を折る。
「時化だ。今この船は嵐に見舞われているんだ……」
唸る風の音、叩きつけられるような雨の音。船の暮らしなど知らないマリアはそのつど肩を震わせ、リョカの手を強く握る。
「ひとまず上を見てくる。ここで待っていてくれ」
「そんな、私一人でこんなところに……」
「大丈夫、直ぐ戻ってくるから……」
リョカは立ちすくむマリアを宥め、甲板へと駆け上がる。
そして見たものは折れたマストと、大きく傾く甲板の様子を。
何人かの船員は必死にそれを食い止めようとしていたが、煽られる波しぶきに足をとられ、今その瞬間波間に消えた。
「ちくしょー! 何が光の神様だ! くそくらえ!」
「だからあんなクソ教団の仕事なんて請けたくなかったんだ。もうすぐオラクルベリーだってのによー!」
怒号の中、懐かしい言葉を拾うリョカ。嵐のせいで視界は零だが、光の精霊を集め、屈折率を変える。すると、そう遠くない場所に大陸が見えた。
――これはもしかしてチャンスかもしれない……。
そう考えたリョカは船倉に引き返し、タルを抱える。
「マリア、この船はもうもたない。脱出しよう」
「そんな!? こんな嵐の中をどうやって!?」
「僕に考えがある。ここで大人しく難破するのをまつよりもずっといい」
「リョカさん……わかりました……」
リョカはマリアの手を取り、大きめのタルを抱えて階段を上る。
ざわめく船員達は密航者のことなど眼中になく、怒号と罵声の中、祈りだすものもいた。
リョカはタルに防壁魔法を唱えると、マリアに中に入るよう促す。続いて自分も半身を入れ、印を組む。
「吹き荒ぶ風よ、嵐を担う横暴な猛者よ、今、我の求めに応えて唸れ、バキマ!!」
リョカはタルに向かって中級真空魔法を唱える。荒れ狂う嵐の中、風の精霊を集めることは容易く、初めて詠唱する中級真空魔法は、バギとは比べ物にならない威力だった。
タルは荒れ狂う嵐の空に放たれ、着水する。衝撃は防壁魔法で何とか緩和される。
リョカはその衝撃に堪えながら、再び印を組み、真空魔法を推進力に変える。
「バギ、バギ、バギ!!」
魔力が尽きるのが先か、それとも……?
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魔力を使い果たした頃、リョカ達の乗ったタルは海流に乗ることができた。
既に肉眼でも陸地の見える距離であり、浜の近場で漁をしていた小船に拾われた。
二人はこうしてオラクルベリー付近の修道院へとたどり着いた……。
続く