ペットの恋-1
翌日―。
悶々としてあまり眠れずに朝を迎えた梨華は、玲子の車に乗って彼女の家へ向かっているところだった。
てっきり乗っているものだと思っていた梨華は、初老の男性から話を聞いた時拍子抜けしてしまい、なんとなく気まずいような緊張した面持ちで後ろの座席に黙って座っている。
『…梨華様、ありがとうございます。』
突然話しかけられて、しかもお礼を言われたことに【?】を浮かべていると、初老の男性は穏やかに微笑みながら話し始める。
『まだ数日ですが…、梨華様とお会いになってからのお嬢様は、とても前向きに物事を捉えてお仕事をなさるようになり、笑顔も特段に増えて、雰囲気も穏やかになられました。私共は大変嬉しゅうございます。それもこれも、梨華様とコミュニケーションをお取りになられてからのこと。大変感謝しております。』
玲子のイメージから、最初からそういう雰囲気だと思っていた梨華は、それを聞いて前は違ったのかと不思議に思いながら、恐れ多いと首を振る。
『いえいえっ私なんかただの金魚のフンみたいなもんですから…っそんなに感謝しないでも…っ』
初老の男性は、穏やかに笑いながら【これからもお嬢様をよろしくお願いします】と丁寧に告げた。
数十分走ると玲子の住むマンションへ到着し、再びドアを開けてもらってオートロックの番号までしてもらい、玲子が出たのを確認すると初老の男性は車へ戻る。
梨華は、開いた扉からエレベーターに乗り最上階のボタンを押すと、さっき初老の男性が話したことをなんとなく考え、やっぱり不思議に思い気になったり、そういえば彼女のことを何も知らないと気付いて寂しいような変な感覚になった時、ドアが開く。
モヤモヤしたような気持ちを抱えたまま部屋の前まで歩くと、ゆっくりとチャイムを押した。
カチャ、
と、軽い音を立ててドアが開くと携帯を片手に仕事の話をしながら、入ってと視線でいう玲子。
頷いて部屋に上がるとソファーを指差され、大人しくそこに座って待つ梨華。
別の部屋に消えた玲子を視線で追ってから、なんとなく部屋を見回してみると最初にきた時には気付かなかったものが色々と見えてくる。
白と黒でまとめられた、あまり物がないシンプルな室内。
ソファーの前にある大きな液晶テレビに、沢山収納出来るテレビ棚、その隣には背の高い観葉植物。
高価そうなアクセサリーや、アロマが並ぶインテリア用のクラシックな棚と柔らかな光を放つ照明。
ごちゃごちゃとギャルちっくな梨華の部屋とは違ういい香りのする大人な部屋に、玲子のイメージにピッタリだと妙に納得する。