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「公園の泡姫」
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「公園の泡姫」-9

「あらら、藤原さん、結構、気持ちよさそうね…」
 スクリーンと明日香を見比べながら、優美が嘲笑するように言った。最初はゆっくりだった明日香の動きが、徐々にピッチをあげ、振り子を振るように激しく動き始める。
(ああっ、もうイヤ…)
 俯いた明日香の顔が真っ赤になり、涙の滴が机に落ちた。
 スクリーンの明日香はしなやかな髪を跳ね上げると、上体を倒して男の肩に手をついた。大胆にヒップを突き出し、それを前後に揺するだけでなく、しゃぶりあげるように上下させ始める。
「あんっ、あんっ、あんッ…」
 女学生みんなが声を失う中で、明日香の声だけが、教室のスピーカーから響く。
「こんなことして、ボランティアになるのかしら」
「セックスが好きでやってるだけじゃないの」
 そう言い合う優美と夏希をピシャリと叱りつけたのは、意外にも犬飼だった。
「それは違うわよ!」
 犬飼はそう言うと、レーザーペンでスクリーンを示した。
「見てごらんなさい、ここにいる人たち、結構、きちんとした身なりをしているでしょう」
 犬飼が示した男たちは確かに、そうだと言われなければ、ホームレスだとは思えない様子をしていた。
「でも、この人たちは、2月程前にはボロボロの服を着て、何をする気力も持てず、公園でゴロゴロ寝転がっていた。それが、こんな風に気力を取り戻し、中にはこの後、ホームレスの生活を抜け出した人もいる。それにね、公園に残っている人たちも一種のコミュニティを作り、ここでは、喧嘩や諍いも起きなくなった。どうしてだと思う?」
 女学生たちは、神妙な顔で犬飼の話を聞いていた。
「この人たちは、藤原さんと肌を合わせ、セックスすることで、生きる張りや、男としての自信を取り戻したの」
 みんなの視線が明日香に注がれる。さっきと打って変わって、その目に軽蔑と好奇の色はなかった。
「それに、私が指示した藤原さんの活動は一週間に1度だけど、それ以外の日も、公園に出かけて行って、ホームレスの人たちとの人間関係を作っていったのね。これは、高く評価できます。ウィキペディアを丸写ししたようなレポートとは、大違いね」
 そう言うと、犬飼は優美たちに厳しい視線を投げつけた。

 明日香の公園でのボランティアも、いよいよ最終日となった。今日は、犬飼も同行している。
「あなたのボランティア精神、どこまで鍛えられたか見せてもらうわ」
 そう言うと、犬飼はブルーテントが並ぶ中を通り抜け、テント村の奥へ奥へと入っていく。行き着いた先には、ブルーシートと段ボールで作られた、半ば崩れかけたテントが立っていた。
「こんにちは…」
 明日香はテントの入り口に立って、薄暗い中に向かって声をかけた。
 やせた背中を丸めた男の姿が見えた。そこにいたのは、小柄な老人だった。声をかけた明日香の方を振り返るでもなく、何か独り言をブツブツと呟いている。
「失礼します…」
 中に足を踏み入れだけで、動物園のような、強烈な臭いが明日香を襲った。老人が濁った目でこちらを振り向いた。伸び放題の髪は油で固めたようになり、ところどころ変色した白い髭が首筋にかかっている。ボロボロの服は、垢と埃でテカテカと黒光りしていた。

「今日は、明日香ちゃんに身体を洗ってもらおうと楽しみにしてたんだがな…」
 この公園に移って来た松吉が、水飲み場のベンチに腰掛けてそう言った。以前はボロボロだった彼の服装が、かなり小ぎれいなものになっている。食事を少し我慢して、缶拾いで得た金で、服を手に入れたのだと言う。
「どうやら、今日は『隅の老人』の所に行ったらしいよ」
 情報通の久志が眉をひそめて言うと、ホームレス仲間が一斉に声をあげた。


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