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「公園の泡姫」
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「公園の泡姫」-4



「ホントか、久志?」
 男は、頭をボリボリと掻きながらそう言った。長い間着替えたことがないらしく、色も柄も判然としない煮染めたような服を着ている。ぼろぼろの服はところどころ破れて、垢だらけの肌を覗かせていた。
「嘘じゃねぇって、親父さん。まあ、来てみろや!」
 相方の男がそう言った。こちらは、まだ若く、着ているシャツとジーンズもそれほどは、汚れていない。
 二人は缶拾い仲間である。松吉は五十代、久志は二十代。親子ほど年が離れているが、なぜか馬が合った。公園のホームレスたちも、この年代が最も多い。長期間ホームレスから抜け出せない五、六十代と、最近の経済危機による「派遣切り」で職を失った二、三十代だ。
 二人が近づいてくると、公園にいた人たちは、そそくさと遠ざかっていく。まるで、見てはならない物を見てしまったかのように視線を逸らしながら…。

 午前中の講義を終えた明日香は、金盥を抱えて公園にやってきた。犬飼に与えられたホームレスの体を洗う課題は5回。今日はその3回目にあたる。
 いつもの水飲み場付近には、既に長蛇の列が出来ていた。公園で身体を洗ってくれる明日香のことは、ホームレスたちの間で話題となり、多数のホームレスが集まっているのだ。
 表情が強張りそうになるのを、頬を撫でてほぐす。ボランティアは、どんな時にも笑顔が大切だ。
「こんにちは、明日香ちゃん」
 ホームレスたちがニコニコしながら、声をかけてくる。明日香の方も「こんにちは」と優しい笑顔で答えた。身体を洗う日以外も、彼女は時折、生活支援でテント村に足を運ぶようになっていた。人間的な触れ合いを作ることで、犬飼の課題に対する気の重さが、少しだけ和らいでいた。
 明日香はブルーシートを地面に敷き、服を脱ぎ始めた。
 男たちが見つめる前で、明日香がブラウスのボタンを外していく。一つ二つとボタンが外されるたび、胸元が露出していく。三つ目のボタンが外され、双乳を包む白いブラジャーが露わになった。
「あんなカワイイ娘とデキるのか!」
 久志に連れられて水飲み場までやってきた松吉は、驚きの声をあげた。
 身体を洗うと言っても、普通にタオルで洗うだけではなく、
可愛い女の子がソープ嬢のように自分の身体を使って洗ってくれ、本番にも応じてくれるというのだ。半信半疑で来てみたが、本当に、目の前で若い女の子が服を脱いでいる。既に下着姿になっている娘は、頭がおかしい様子はなく、その表情はむしろ賢そうに見える。清楚で、それに何より美人だ。
 ブラジャーのホックが外された。胸元ではずんだ双乳は、瑞々しい白桃を彷彿とさせた。裾野が描く丸いカーブも、ツンと上を向いた膨らみも、ピンク色の乳首も、官能的でありながら、初々しい。ホームレスたちは、ポカンと口を開けて、それを見つめている。
「あんな娘が…、ホントかよ?」
 松吉が驚いているうちに、彼女はとうとうパンティを脱いでしまった。匂い立つような草むらが見えている。
「お尻なんか、ゆで卵みたいだぜ」
 スベスベのお尻を見て、松吉が歓声をあげた。久志も「うんうん」と頷いた。
 準備を整えた明日香の前に、一人目の男が立った。よれよれのスーツは、以前の彼が会社勤めをしていたことを窺わせる。
何日も頭を洗っていないのか、脂と埃で絡まった髪の毛にフケが浮いていた。
「初めての方ですね…」
 優しく尋ねる明日香に、男は無言で頷いた。揉め事を避けるために、ホームレスたちは、前回からくじ引きで順番を決めるようになっていた。それでも不満は隠せず、今日の一番を引き当てた新顔を、以前からの住人たちが睨んでいる。
 新顔だと一目でわかったのは、その汚れからだ。
 明日香が来るようになってから、この公園に住んでいるホームレスたちの様子が変わり始めた。どことなく身奇麗にする者が増えてきたのだ。


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