後輩は性奴隷……11【最終話】-3
「そ、そんな……どうして……?」
結衣の肩が震えている。
何かを恐れているかのように。
「……いや、待て待て。お前は上原朱音で、お前は白川結衣やろ?」
交互に指を指しながら確認するも、結衣の動揺は酷くなる一方。
とうとうビニール袋を手放してしまう程に。
「ぃゃ……わっ、たしっ……」
ついに結衣は、弾かれたように部室を飛び出して行った。
「おいっ!」
という俺の声に振り返りもせず。
「……朱音、なんで否定しないんだっ」
「ちゃんと……話すから。それまで、あまり考えないで」
無理があるだろ。
「本当は、話したくなかったのに」
と付け加えられた朱音の声は、独り言のようにあまりにも小さかった。
「……それより、追いかけた方がいいんじゃない?」
「あ、あぁ……」
結衣の動揺の仕方は尋常ではなかった。
本当に、朱音を恐怖の対象として見ていると思えるくらいに。
学内をあてもなく駆け回るも、全然検討が当たらない。
気持ちだけが逸り、足が縺れてしまう。
もう一方のキャンパスまで駆けずり回ったものの、結衣の姿はどこにもなかった。
まさかこんな形で初めて踏み入ろうとは、俺も予想外だ。
だが、もっと意外なものは、俺の知らない真実なのかもしれない。
3限はとうの昔に始まってしまっている。
だいたい、どうして構内はこんな無駄に広いんだ。
ホームのキャンパスに戻った俺はとりあえず喫煙所に滑り込み、自販で買った缶コーヒーのプルタブを起こした。
一口啜り、煙草に火を点けながら話を整理してみる。
苗字の違いを指摘しても、二人とも否定しなかったのは何故なんだろうか。
本当に姉妹なのか?
はは……そんなバカなっ。
じゃああいつは……あいつは一体、いつから俺のことを知ってるんだ?
一体、いつから俺のことを好きでいてくれてるんだ……。
煙草を口にして、思考のリセットを試みる。
仮に姉妹だとして、どうして苗字が違うんだ?
考えられる要因は二つ。
両親が事実婚だったか、離婚したか。
朱音と付き合っていた時は、親は共働きで片親ではなかったはずだ。
籍も入れていただろうし……。
「……っ?!」
そうか。
だから朱音は、あんなことを……。
朱音の気遣いを無駄にして、俺はまた罪悪感を背負ったのだった。
どのくらいこうしているだろう。
喫煙場所のベンチに座って、傾いていく自分の影を視界に捕らえ始めてから、もう5限の始まる合図が鳴るところまで時は進んでいた。
そろそろ、バイトの支度をしなければならない。
思考は影の動きと共に、ゆっくりとした早さで変わっていた。
始めは結衣のこと、次に朱音のこと、離婚のこと……そしてバイトのこと。
そう言えば、真里とどんな顔して仕事をするかなんてちっとも考えてなかったな。
どれもこれも他人事のようで、でも全部自分の事で……。