後輩は性奴隷……11【最終話】-10
「ずっと結衣のことが気になってた」
宣戦布告を受ける、もっと前から。
「でも今は、元カノの妹として気にかけてますよね?」
「……なんで?」
「なんでって……知られてしまったから。悲しい想いをさせた人の妹だ、って。私はもう、その枠組みからでることはありません」
前の俺ならそうだったかもしれない。
でも今は……白川結衣を白川結衣として捉えることができる。
「……もう、俺の中に朱音はいないのに?」
「え?」
そよ風がサラサラと流れ、俺の顔を見た結衣の髪を靡かせた。
艶やかで、綺麗な黒髪を。
「昨日、朱音と話して気付かされた。俺の中にいたのは朱音じゃなくて、朱音に置き換えていた“責任”だったことに……」
髪を耳に掛ける結衣からは、少しだけ、話の続きを待っているかような期待が窺えた。
「でも……知ってるだろ? 俺が犯した罪のこと」
そう。
罪が消えることはない。
それが現実だ。
「それを背負ったまま誰かと一緒になっても、相手を幸せにはできな「私もっ……」
俺が言い切るのを待たずに、結衣は口を開いた。
しっかりと俺の目を捕らえる瞳には、強い意思が宿っている。
「私も……一緒に背負います。先輩の痛みを、私にもわけてくださいっ。ちゃんと受け止めます……受け止めますからっ……」
彼女はとても華奢な体つきをしていた。
年齢を聞かなければ、少女と表現してもいいくらいに可愛らしく、小さい。
その小さな体でこれだけの決心をする結衣に、心が射抜かれる鋭い痛みを確かに感じていた。
こんなに広い心は俺には勿体無い。
今まではそう思って、ずっと目を逸らしてきた。
でもそれじゃダメなんだ。
前に進むため、幸せな未来のために、俺は結衣という人物を必要としている。
結衣に対する想いが、止めどなく溢れてくる。
「好きだ」
「……え?」
強い眼差しを呈した瞳が、途端に大きく見開かれた。
「好きなんだ、結衣が」
考えるよりも先に、結衣を抱き締めていた。
何度も感じたはずの体温なのに、今までとは全然違った温もりが胸の中に染み込んでくるようだった。
「私も」
背中に回される彼女の腕は、しっかりと俺に絡み付く。
「好きです……先輩」
澄みきった空から陽光が降り注ぎ、水面がキラキラと輝いていた。
枝にとまった小鳥の囀ずりは、せせらぎの中へと溶けていく。
そんな5月の中旬に、一生忘れないであろう口づけを、結衣と交わした。
―完―
Written by ZIN.