投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

異界幻想の最初へ 異界幻想 37 異界幻想 39 異界幻想の最後へ

異界幻想ゼヴ・アファレヒト-11

 二の腕に頭を乗せると、ジュリアスが髪を梳き始めた。
 なにもかもが、心地いい。
「……ごめんね」
 ぽつりと呟いた言葉を、ジュリアスは聞き咎める。
「何を謝ってるんだ、お前は」
「色々。私、事情を知らなかったから……あなたにひどい事ばかり言ったと思う」
「知らなかったんだから仕方ないだろ」
 語調は、ひどく優しかった。
「うん……された事が許せないのであって、あなた個人を憎んでる訳じゃない。そこの区別がついたから、もう怒る事はないと思う」
 暗闇が、二人を饒舌にする。
「許せない……か。俺がした事の何が悪かったか、参考までに教えてくれりゃ助かるんだがな」
 ふふ、と深花は笑った。
「まず最初は、無理矢理私を連れ去った事。時間がなかったのは今なら分かるし、もう戻れない場所の事だから文句は言わないけれど。私にもあっちに友達や家族や、十数年分の生活があったんだから……ね」
「そうか……」
 会いたくなくて会わない自分と違い、深花は……もう、会いたくても会えないのだ。
「それと……まあ……」
 思わず口ごもってしまったが、ちゃんと言う事にする。
「神機搭乗後のアフターケアね。分かったと思うけど、私……」
「……そこは俺が悪かった。ただ俺の見識としては、成人してそれなりの年数が経ってる女だから、まさかと思ってなぁ」
 くす、と笑い声がこぼれる。
「神機パイロットの特性も知らなかったから、私としては得体の知れない男から理不尽に体調を乱された揚句、妊娠させようとしてるとしか思えない行動をとられた訳で……正直、恐かった」
 深花の体が震えたのが分かった。
「しかも目が覚めたら知らない人達に囲まれてて……お前の祖母は人類を裏切った重罪人だ、お前が代わって罪を償えなんて言われて……」
 平和な国で平凡に暮らしてきた民間人が、いきなり罪を背負わされて軍に放り込まれて軍人として働き始める……普通なら逃げ出してもおかしくない所を、深花はよく耐えている。
「……健気な奴だな、お前は」
 ぽつりと感想を漏らしたジュリアスは、深花の体を引き寄せた。
「へ!?あ、ぅえ!?」
 あたふたし始めた深花を、彼は優しく抱き締める。
「しかし細いな。ちゃんとメシ食って、体動かしてたか?」
「ぁ、う……」
 体温が急上昇していくのが感じられて、ジュリアスは笑った。
「おいおい……何を意識してんだ?」
「ううううるさい!だ、抱き締められるのなんて……家族しか経験してないのよ!だからキスだって……あ!」
 喋りすぎた事に気づき、深花は慌てて口を閉じる。
 しかし、短気ではあるが馬鹿ではないジュリアスが深花の言いたかった事を理解するには十分だった。
「あ~……そりゃますます悪かった。いきなり体に触れるのも悪いかと思って、キスから始めたんだがな」
「う、いや、あの……」
 短気に自分を怒鳴る男にこうも謝られると、どうにも調子が狂う。
「う?」
 謝っている?
 ジュリアスが?
「あ……」
「どうした?」
「ん……何でも。おやすみ」
 不自然に会話を切り、落ち着くように念じながら目を閉じる。
 すると本当に泡を食うほどだった気分が落ち着き、ジュリアスの行動を振り返る余裕ができた。
 急に抱き締められたのは何事かと思ったが……自分が泣かないよう、意外性のある行動をとったのだと考えれば納得がいく。
 成り行きではあるが、こうして腹を割って話し合ってみれば立場を理解してくれたし謝罪もしてくれた。
 ただ……価値観にズレがあって、今までは深花の立場を理解できなかったのだ。
 ジュリアスは、決して頭を下げない男ではないのである。



異界幻想の最初へ 異界幻想 37 異界幻想 39 異界幻想の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前