続・幻蝶(その1)-1
「十六世紀頃に死亡したと思われる人間のミイラが、南イタリアのM教会地下墓地で、あたかも
眠っているかのような状態で発見されたことが、このほど教会側から発表された。
ミイラは、完璧に近い肉体の形状を残したまま、数百年間以上にわたって奇跡的に保存されてい
たと教会は発表しているが、そのミイラがどういう人物なのか、またその性別など詳しいことに
ついて、教会側はふれていない。
人間のミイラについては、カプチン・フランシスコ修道会の地下納骨堂に遺体が安置されている
1920年に死亡した少女ロザリア・ロンバルドが、ほぼ完璧な肉体を維持したまま保存されて
あったことは「20世紀の奇跡」と言われたが、今回のM教会地下墓地でのこのミイラの発見は、
人類史上、最大の驚愕的な大発見であると言える。
しかし、このミイラ化の処置を施したと教会が発表しているS…修道会のサフラーナ修道士は、
そのミイラ化の方法を記述した書物をどこかに隠蔽したまま、この世を去ってしまったらしい。
また、このサフラーナ修道士がどういう人物なのかについて、教会側はなぜかすべてのコメント
を、拒んでいる…」(ロイター通信より)
追ってくる…。
ヤスオは、捕蝶網をかざしながら、ミルク色の霧に包まれた道を追ってきているのだ。
私は逃げていた。なぜかわからなかった。全裸の私は霧の中をもがき続けながら、必死でヤスオ
から逃れていたのだ。
怖かった…いや、烈しく疼く自分の性器の中が怖かったのだ。
突然、目の前に、断崖から開けた暗澹とした黒い海が広がる。眩暈がするような絶壁の端に私は
追い詰められたのだ。断崖の下には、白い牙のような飛沫とともに、烈しい波が打ち寄せている。
じりじりとヤスオは、薄笑いを浮かべ、私を絶壁の岩端に追い詰めていく。
…どうして、ボクから逃げようとしたの…だめじゃないか…亜沙子さん…
ヤスオは、手にした補蝶網をゆっくり揺する。風に吹かれた網がふわりと広がる。
私は膝の力が抜け、地面に崩れるように膝をついた。私の性器の中にいる蝶が、ひらひらと
極彩色に彩られた薄い膜のような羽根を開き始める。
白い太腿のあいだから、その蝶はしだいに羽根を大きく広げ、無意識のうちにヤスオを求め、
燦爛と陰部の中から輝き始める。
ヤスオに捕らえられる…そう思ったとき、滲みだした肉汁とともに爛れるように肉襞が溶けてい
く。そして、子宮の中が小刻みに痙攣し、どろりとぬかるみ始めていた…。