悶々ラバーズ-7
「おっはよ―――っす!」
「「―――〜〜〜〜ッッ!!??」」
一瞬で離れる。
ガラガラと勢いよく開いたドアと共に、狭のやつが入ってきた。
「今日も一番乗り……じゃねぇな。あれ?お前らこんな時間に何してんだ?珍しいな」
「お、おはおはおはよう狭君っ!」
「……うっす」
キョトンとこちらを見てくる狭に脱力しながら手を挙げて挨拶する。
「いつもなら俺と夢逢が一番乗りなんだけどな。負けちまったかぁ」
「登校に勝ち負けはねぇよ。だいたいお前らカップルはなんでそんなに早く来るんだよ……」
「え?一番乗りが気持ちいいから夢逢にも付き合ってもらってるんだが」
「……大変ね、夢逢ちゃんも」
その満月さんの「待ってよ狭くーん……」という声が廊下から聞こえてきた。
どうやらコイツは彼女を置いて先に来たらしい。
「で、吾妻達は何を……」
「なんもしてねーよ!」
未遂だちくしょう。
「ふーん?ま、いいけどな。ちょっくら夢逢を迎えに行ってくるわ」
そう言って狭はまた出て行った。
残された俺達は顔を見合わせて、
「「はぁ……」」
どちらからともなく、ため息をついた。
なんだかホッとしたような……ちょっと残念なような。
「ね、吾妻」
「ん?」
「狭君、気づいたかな?……私達が付き合ってるって」
「あー……」
たしかに、普通に考えてこんな時間に二人っきりで教室にいるのはおかしいよなぁ。いやでも今日に関しては完全に偶然が重なった結果なわけだが。
「気づいてないんじゃね?あいつアホだし」
「それはひどいと思う」
多分気づいてるだろうな。というか俺が水澄に告ったのを知ってる中の一人だ。
ふと時計を見ると、そろそろ七時半。早い人なら学校に来始める時間帯だ。
「とりあえず落書き消すか。そろそろ皆来るぞ」
「え?もうそんな時間!?」
すっかり失念してたようで、慌てて黒板消しを取りに行く水澄。
と、こちらを振り返って一個手渡される。
「ほら、吾妻も手伝って!」
「りょーかい。……にしても何だこの絵?豆大福?」
「パンダ!」
「………………」
「な、何よその憐れむような目はっ」
なるほど。どうもコイツには絵心は無いらしい。
どう見たってパンダじゃないの、とぶつぶつ呟きながら黒板を消していく水澄。
……そんな姿すら可愛いとか思う俺は、相当やられちまってるのかもしれない。
「……水澄」
「んー?」
「今日からまた、よろしくな」
「……ん」
ちょっと赤くなって、でも嬉しそうに――笑った。
彼女らしく、とか彼氏らしく、とかはいまだによく分からないけども。
俺達らしく付き合っていけたら、それはきっととても素敵な事だろうなぁと……水澄の笑顔を見て、俺はそんな事を思った。