悶々ラバーズ-6
「……あの、水澄」
「な、何よ。笑うなら笑えば――」
「いや、なんつーかめっちゃ嬉しい」
「ぅなっ!?」
ボンッ、と水澄が一気に真っ赤になる。漫画みたいだなぁ、とか思いつつも俺もそうなってるような気もする。
「そ、そういう吾妻はなんで今日に限ってこんなに早いのよっ」
「え?あ―……」
気恥ずかしさに意味もなく頬を掻いたりしながら、
「……似たような理由だよ。なんか早く目が覚めちまって、水澄を迎えに行って一緒に登校するか考えてるうちに煮詰まって、早めに学校来た」
「……迎えに来てくれるの?」
「家の場所知らねーし、待ち合わせ場所も決めてないから断念したけどな」
「…………」
「…………」
お互いに沈黙。
なぜだかどこかくすぐったいような雰囲気。
朝の、まだ誰もいない教室。
跳ねる心臓の音。
見つめる水澄の顔は真っ赤で、心なしか目は潤んでいる。
一歩、近づく。
水澄は動かない。
もう一歩近づく。
水澄は動かない。
また一歩、近づく。
水澄は動かない。
もう一歩近づいて――二人の距離は一歩分になった。
それでもやっぱり水澄は動かずに……少し潤んだ瞳でじっと俺を見上げて来る。
……これは。
そういう事、だろうか。
いや、いいのか?
こう……付き合って初日から、こんな流されるような感じで、その……キスしても。
心臓の音が聞こえる。
静かだった教室が、体の中からの音でにわかにうるさくなる。
朝の学校。
誰もいない。
二人きり。
赤い顔で見つめる水澄。
多分同じくらい赤い俺。
彼女になったって事で、俺のために朝早くからいろいろと考えてくれた女の子。
――あぁ、ちくしょう。
可愛いなぁ、やっぱ。
そして俺は、水澄との距離を、もう一歩――