後輩は性奴隷……10-1
結衣の心を突き放すことは困難だ。
故に、距離を置こうと思い始めた5月の中旬。
話しかけられても軽くあしらい、家に来たときは理由をつけて追い返す。
そのようにしようと自分に言い聞かせた。
でも、その決意は直ぐに揺らぐこととなる。
「印象ってアングルでたいぶ変わるんですねーっ」
実際のショットを見せるながら簡単なテクニックを説明している友人。
その回りを囲む中に、結衣がいた。
俺は部室の隅の方でコーヒーを飲みつつ、レポートの資料の整理をしている。
そうすることで、話しかけづらい空気を作っていた。
「そろそろ私たちも撮りたいです」
「うん……このくらいならインスタントカメラでも撮れるし、そろそろ実践してみる?」
そんなやりとりを横目でチラチラと窺っていた。
結衣の、友人に対する反応が気になって仕方がない。
この嫉妬というものが、俺が恋をしていることを物語っている。
それには気付いていながらも、俺は何もアクションを起こさないと決めたんだ。
その場に耐えきれず俺は席を立った。
やり場のない苛立ちがニコチンを求めさせている。
「ふぅー……」
喫煙場所のベンチに腰を下ろしながら長く息を吐いた。
それでもモヤモヤしたものが出ていくことはない。
煙草に火を灯し、深く吸い込む。
「はぁー……」
吐かれた白い煙は、やはり溜め息を纏わせていた。
「……先輩」
躊躇いがちに俺を呼んだのは結衣だ。
彼女は顔色を窺いながら、俺の隣りに座り込む。
「なに? 何か用?」
自分でも不機嫌な声色だと思う。
「……特に」
「あっそ」
俺は無意識のうちに、忙しなく煙草を口に運んでいた。
「その……写真の撮り方、教えてもらえないかなー……なんて」
「あいつに教えてもらったら?」
何だろう……この、ふつふつと沸き起こってくるイライラは。
予想以上に胸をかき乱されているものの、驚きはない。
むしろ何かがプツリと切れた。
「さっきみたいな黄色い声で甘えてこいよっ」
勢いに任せて立ち上がり、荒々しく煙草を揉み消した。
「あの……せんぱ「ぅるせーっ」
結衣を振り返ることもなく、俺はずかずかと歩き出していた。
……最低だ。
俺は無意味に人を傷付けている。
結衣に辛くあたったり、真里をその気にさせたり……。
そんな自己批判を繰り返して、気付けば部室に戻っていた。