愛しのお菊ちゃん5-3
「好き合ってる男の人と女の人が一緒に色々な処に行く事がデートだよ」
「楽しそうな物でございますね…そのデートなる物は」
やっぱり女の子だ。
うっとりと夢見る様な瞳になってるお菊ちゃん。
僕もメチャクチャ、テンションが上がってきた。
でも…。
「着物と髪型…どうしようか?」
これは何とかしないと目立って仕方ないしな。
「俊樹さまは…菊のこの様な姿をお気に召しませぬか?」
ちょっと淋しげなお菊ちゃん。
わっ!ヤバい!
「違うよ!僕は大好きだけど!ただ今の時代、他にその姿をしている人はいないから目立っちゃうかと思って」
僕は必死のフォロー。
お菊ちゃんの判らない言葉もあったかもしれないけど。
気持ちは届いたみたい。
淋しげな顔から一転、ニッコリと笑うお菊ちゃん。
「それでしたら…菊の姿は俊樹さまにしか見えておりませぬゆえ、大丈夫にございます」
そして、ちょっとドヤ顔。
「そっかぁ!それなら安心だね!」
僕も満面の笑み。
他の人が聞いたら耳を疑う様な話でも。
今の僕には何の問題もなかった。
ただ…こんなに可愛いお菊ちゃんを他の人に見せびらかせない事だけが、唯一残念ではあった。
電車に乗って、お墓に向かう為。
駅に到着した僕とお菊ちゃん。
僕はやっぱ切符を買うけど。
自動改札を開きもせずにスッと抜けちゃうお菊ちゃん。
この辺はさすが幽霊さんだ。
駅名の看板の前で…。
「この名前を覚えていてね…お菊ちゃん」
目を丸くしてキョロキョロしているお菊ちゃんにそっと囁く僕。
駅の名前を小さい声で呟いて覚えてるお菊ちゃん。
その真剣さがヒシヒシと伝わってきて。
益々、お菊ちゃんが好きになる僕。
お菊ちゃんが駅名を覚えたら。
僕はお菊ちゃんといっぱい話したいからお菊ちゃんの手を引いて。
人気の少ない方に向かった。
「これから僕たちは電車って物に乗るよ」
「電車?」
キョトンとしているお菊ちゃん。
お菊ちゃんの時代で人がいっぱい乗れる物っていったら…。
「陸を走る舟みたいな物だよ、すっごく沢山の人が乗れるんだ」
「凄い物にございますねぇ…電車なる物は」
乗り物が好きなのかなぁ。
お菊ちゃん…早くもワクワクしてるみたい。
そして騒音と警笛と共に電車がホームに入ってきた。
「わっ!」
両耳を押さえ目を見開いてビックリしてるお菊ちゃん。
「大丈夫?お菊ちゃん!」
お菊ちゃんの顔の前に僕は自分の顔を出すと。
更に驚かさない様に微笑みながら少し大きな声を出す。
僕の表情に安心したのか両手をゆっくり離すお菊ちゃん。
「す…凄いモノにございます」
目はまだ大きく見開いてるけど。
しかし可愛い表情だなぁ。
「僕がついているから…大丈夫だからね」
僕は優しくお菊ちゃんの手を握る。
お菊ちゃんもしっかり僕の手を握り返してきた。