後輩は性奴隷……9-6
「はぁ……」
最後の授業を終えた俺は真っ直ぐ家に戻り、崩れるように座り込んでいた。
大丈夫だと思っていた結衣からの告白に、大きなショックを受けているのを自覚している。
こうなる前に関係を断たなければならなかったのに……。
でも、恐らく結衣も真里と同じなんだろう。
保身から生まれた感情に違いない。
早く結衣に気付かせないと……。
「ん?」
「……あれ? 早いですね?」
突然開いた玄関から、結衣がひょっこり顔を出した。
「今日、呼んだっけ?」
「いえ?」
あっさりと答える結衣。
「何か食べましたか?」
荷物を置いて、上着を脱ぎながら訊いてくる彼女に
「ううん」
と返すと
「じゃあ、今から作りますね」
と冷蔵庫を漁り始めた。
これが、彼女の言うところの出撃なのだろうか。
小気味いい包丁の音を聞きながら、後ろ姿の結衣をチラチラと窺ってみる。
しかし、彼女の心境を読み取ることは不可能だ。
炒めものの美味しそうな音や香りが広がり、急激に空腹感を覚えさせる。
しかしそれよりも、結衣の後ろ姿がもたらすムズムズした刺激の方が遥かに俺の意識を支配していた。
俺には今、二つの想いがぶつかり合っている。
結衣の目を覚まそうとする自分と、結衣の知っていることを聞き出したい自分。
だが今こうして彼女の後ろ姿を見ている自分は、そのどちらとも違っている気がする。
胸の奥が穏やかでなく、時折痛い。
「ちょっと味見してください」
半身を振り返らせる結衣に、一瞬鼓動の高鳴りを覚えた。
これは、過去に置いてきたはずの感覚に似ている……。
「先輩? もしもーし? 聞いてますかぁ?」
チラチラ手を振って見せる結衣に、ふっと我に返った。
無愛想に返事しながら立ち上がった俺は、菜箸に捕まれた物を口に入れてみる。
「どうですか?」
「いいんじゃない?」
「うわー、テキトー」
と言いつつ、彼女も摘まんだ。
「ちょっと薄いかな……」
首を傾げながら吟味する結衣。
味のことなど意識にない俺は、今も続いているこの胸の高鳴りに戸惑いを覚えていた。
思えば、川原で彼女を見たときにも似たようなことがあった。
あれは何だったのか。
それを深く追求せずに来た。
いや……今まで目を逸らして来たのか。
高2の夏から、ずっとその感情と向き合わずに生きてきたんだ。
なぜなら俺は、あの日以来恋などする資格のない人間なのだから……。