後輩は性奴隷……9-3
「でも、きっかけなんてどうでもイイじゃないですか。たまたまエッチが始まりだったってだけで……」
「なぁ」
「はい?」
「恋って何?」
ずっと忘れているその気持ち。
俺には思い出すことができない。
でも、体を重ねる幸福感だけがそれではないはずだ。
「恋は……何て言うか、その人の事で頭が一杯で、ん〜……その人の言動で嬉しくなったり、悲しくなったり、嫉妬したり、ドキドキしたりキュンキュンしたり……」
月並みの表現だな。
でも、やっぱり高2の夏に置いてきた感覚で、今の俺には持ち合わせていないものだ。
再会できた朱音にさえも……。
「そういうの、なる?」
「そりゃあしますよ。あの子と会った時にはすっごく嫉妬しました」
「普段は?」
「え?」
「普段は、俺のこと気になるの? 清瀬さんと話すときも? 友達と遊んでる時も?」
「ぁ……それは……」
思案するように視線を這わせるものの、真里がその問いに答えることはなかった。
次の日。
先週だったはずの大型連休も、既に遠い昔のように思えてくる。
「今日結衣ちゃん見た?」
右隣から部活仲間が身を乗り出してくる。
「見た見たっ」
と食い付いた別の友人が、だるそうな頭を持ち上げた。
「いんや?」
間に挟まれた俺は、むさ苦しさに顔をしかめて答える。
「めっさ雰囲気変わっててんけど」
「へぇ〜」
どうでもいいが、お前らノートとる気ねーだろ。
「そうそう。何か妙に大人びてたなぁ」
「イメチェンしたんじゃね?」
そう言いながら、板書をカリカリと書いていく。
この教授はやたらと書くスピードが速い。
「あぁ、イメチェンか。恋でもしたかな?」
「なんで?」
「言うだろ? 恋をしたら綺麗になるって」
俺を挟んで会話するなって。
「可愛いよなぁ、結衣ちゃん」
って言うか、何でお前はそんなに馴れ馴れしく名前を呼ぶんだ?
「いや、俺的には――……」
挙げ句の果てには、タイプがあぁだこうだと言い合う始末。
頼むからノートをとる邪魔をしないでくれ。
しかし恋をしたのなら、宣戦布告の件は納得がいく。
結衣が恋か……相手は誰だろう。
一度は見ておきたい。
俺くらいの変態じゃないと、結衣の性欲を満たせないだろう。
こりゃ、早く関係を清算してやらないといけないなぁ……。
相変わらず教授の書くスピードは速い。
それを書き写しながら、俺はそんなことを考えていた。