後輩は性奴隷……8-1
「おっしゃー! 呑むぞー!」
吼えた先輩に続いて、ヤローどもの歓声が沸き起こる。
ゴールデンウィークの半ば、遅ればせながら、4月末までに正式入部した新入部員のための飲み会が開催された。
学生サービスが手厚いバーを貸し切っての、恒例行事だ。
「どした? 全然呑んでねーなっ」
友人の一人が首元に腕を絡め、呑め呑めと勧める。
っていうか、さっき始まったばかりなのに何でもうコイツはできあがってんだ……。
グラスを傾けながら内心で思う。
「はぁ……ちょっと一服」
そう言って、グラスを空けた俺は席を立った。
だいたいタイミングが悪い。
俺だってパーッと呑みたいのは山々だが、でも心から楽しめない自分がいる。
深く息を吸い、白い煙を吐き出した。
あの日……朱音は結局何も明かさずに帰ってしまった。
言及したかったが、彼女のオーラがそれ酷く拒んでいて、言葉を出すまでに至らせなかった。
胸中の、砂嵐のようなノイズがボリュームを上げる。
「せーんぱいっ」
「ん?」
俺を呼んだのは結衣だった。
「何してるんですか?」
「煙草」
「……外で?」
「僕、ホタルなんです」
そう。
あろうことか、この部で煙草を吸うのは俺だけなのだ。
なんという悲運!
蛍とは、煙草を吸うために屋外やベランダに出る人のこと。
もちろん、室内に煙草が嫌いな人がいる時や、他のお客さんに迷惑がかかる場合に限るがな。
そんな追いやられた喫煙者を、蛍族というのである!
「……はい?」
結衣はポッカーンとした顔で俺を見る。
まるで、この人大丈夫? というような、憐れみさえ感じさせるような視線だ。
「……大人の事情デス」
「ふむふむ」
手を顎に持っていき、大きく頷いてみせる結衣。
……様子が変だ。
「お前……呑んだだろ」
「えへへ。なんでわかったんですかぁ?」
なんでって……それ以前に、未成年だろ。
「一杯だけにしとけよ」
「ざーんねんっ。今三杯目です」
「はぁああ?!」
俺が煙草一本吸い終わるまでに何やってんだキサマっ。
ふんわりを通り越してふわふわと浮かんでいってしまいそうな結衣の雰囲気に、呆れて溜め息を吐いていていた。
未成年者の飲酒・喫煙は法令で禁止されています。
そんな、バイト中に聞く店内ラジオの一部分が、微酔いの未成年者を前に脳内ヘビーローテーションを始めた。