華詞―ハナコトバ―3の花-3
松下さんが、小さく咳払いをしてアイテムの方向性やイメージをもっと詳しく教えてほしいと仕事モードの顔になる。
私もいつまでも浮かれてはいけないと思い、出来るだけわかりやすく簡単にイメージを伝えた。
私の考えたボールペンは、女性向けの華奢なアクセサリー感覚の物だ。
華奢なシルエットだけど、書きやすくてインクの出も良く、機能性に優れているのが大前提で、ゴテゴテしたチャームではなく、ワンポイントで品のモチーフをつけ、胸ポケットにかけるとキャップクリップがブローチみたいに見えるようなアイテムだ。
小粒のコットンパールや天然石がさりげなくついていて、全体の色もペールトーンの物を
3種類展開で提案した。
あっという間に1週間がすぎ、プレゼンの日になった。
入社して初めて自分の考えたアイテムが商品化されるかもしれないと思うと、いやでも緊張する。
「サオリちゃん、リラックスして。」
「はい…。」
「最初はみんな緊張するよね。僕も初めてのプレゼンは緊張したなぁ。」
「松下さんでも緊張したんですか?」
「するよー。今でも緊張するよ。でも大丈夫だよ、今日は2人だしね。」
松下さんは人懐こい笑顔を作ると私の肩にポンと手を置いた。
肩に置かれた手が温かくて少しだけ緊張がほぐれた気がした。
プレゼンでは緊張で何度か言葉が詰まってしまう時があった。
でもその度に、松下さんがフォローを入れてくれて何とか上手くいった。
やはり女性のスタッフの反応が良く、すぐにでも商品化したいと言ってくれた時には
涙が出そうになる程嬉しかった。。
翌週にはすぐに商品化をする事が決まり、とんとん拍子に私の考えたボールペンが
形になっていくなんて、少し不思議で何だか怖かった。
でもそれと同じくらい嬉しくて、きっと松下さんも自分のアイディアが現実になった時は
同じ気持ちなのかなと、少しだけ近づけたような気がした。
商品化が決まった日、松下さんが二人でお祝いしようと、会社の近くのお店に誘ってくれた。
「サオリちゃん、初商品化おめでとう!!」
「ありがとうございます…。」
松下さんがゴクゴクとビールを飲み干した。
事務所の近くのバーでお疲れ様会をしようと、松下さんが気を遣ってくれたのだ。
「良かったね。きっと人気のアイテムになると思うよ。」
「そうなったら、嬉しいです…。」
「なんか弱気だなー。」
「いや、私本当迷惑かけっぱなしで…。」
確かに良い方向に向かっているのかもしれないが、私一人だったらきっと
上手く行かなかっただろうなと思うと情けなくて素直に喜べない。