6・姉と弟と揺らす腰-1
「・・・・・・!」
邪気を感じた方向に拳を振ったら、手応えがあった。
「ははっ、やるじゃないかまりな。躱す前に俺を捉えるとは」
日比野君は左頬に私の右手の裏拳が突き刺さっているけど、その薄気味悪い笑顔は全く崩れていない。
それどころか手の甲を舌でなぞってきたので、思わず股間を蹴りあげてしまった。
ああ気持ち悪い、本当に気持ち悪い、今すぐその舌を抜かれてしまえばいいのに。
「お、おお・・・こっちはちょっと効いたな、ははは、強いんだねまりな」
「警察呼ぶわよこの変態」
「まあ待て、どうだ?試しに一回俺としてみるのは。いやあまりなさ、前からエロかったけど、ここんとこフェロモン出まくりっつうかさ、もう・・・」
今の私にそういう話題は良くない。怒らせるにはこれ以上無いくらい、触れたら危険な事だ。
カッとなって手を振り上げた私を怖れたのか、日比野君が慌てて両手を突き出してきた。
こういう人の気持ちを考えない相手でも、危機を察知できるらしい。
「じょ、冗談だって。悪い、まりな、怒るなよ」
「男なんてみんなそうなのね!こっちがどんな思いなのかも知らないで!!」
「・・・ま、まりな?」
「自分に都合良く振り回してばかりで、私が聞きたい事は言わない。あんたもそうなんでしょ?!このスケベ!!」
「エロいのは否定しないよ、でも俺は隠し事はしない主義だ。何か・・・抱えてそうだな」
苛立ちや焦りや色んな思いを募らせていて、つい日比野君に八つ当たりしてしまった。
カッとなって抑えきれなかったとはいえ、悪い事をしちゃった。
「ご、ごめん。でも日比野君も悪いよ、いきなり人の体触ろうとして」
「人は誰しも異性に触られたがってるものさ。それが生殖本能ってやつだよ、萩原君」
・・・心配して損した気分だ。
この人を気遣うだけ無駄だったかもしれない。
私は呆れて聞こえる様にため息を吐いてやりながら言った。
「五月蝿いよこの獣。人間はちゃんと理性があるの」
「大人のくせにぶちきれといて理性とか笑わせるなよ」
やめよう、相手にするのは色々な物を無駄に消費してしまう。
時間、体力、精神力、どれもくれてやるに値しない人間だ。
いつも休憩してると絡んでくるのは本当に勘弁して欲しい。
「待てよまりな、お前は何でいつも話してくれないんだ」
無視してその場を去ろうと踵を返す。頼むから、これ以上余計な真似をしないで欲しい。
自分の彼女をもっと見ててあげればいいのよ。
私は私できちんと片付けてみせるんだから・・・・・・
「おい、まりな!まりなってば、聞けよ!」
何度呼び止められても私は振り返らなかった。
日比野君、大丈夫だよ。だから放っといて欲しい。
スケベで誰彼構わず口説くどうしようもない男の人だけど、お節介な所は嫌いじゃない。