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「夜のリンゴ」
【OL/お姉さん 官能小説】

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「夜のリンゴ」-1

金曜日、夜のオフィス。
時刻は21時37分。
静まり返ったフロアに、キーボードの二重奏が流れる。

今晩は課長と二人きり。
でもそれは、私が仕組んだの。
夕方、課長から頼まれた仕事を、上手く誤魔化して後回しにさせてもらった。
それは、課長の承認が必要な仕事だったのだけど、課長の仕事が尽きることはないから、きっと一緒に残ってくれると思って。
課長と私は、ヒミツのカンケイ。

「…どうなの、澤井」

あとちょっと、ってところで声をかけられた。
課長は、取引先と話す時はとっても爽やかなのに、内輪の時はぶっきらぼう。
機嫌が悪いんじゃなくて、地の話し方のせいだってことは皆承知してるんだけど。
私は、そのよく通る低い声が大好き。
自分の名がこの音で奏でられるといつも、どうにか録音できないものかと悩んじゃう。

「えぇっと、22時までには終わります!」

「ん。がんばれ」

課長にかけていただいた言葉を、心の中で飴玉のように転がしながらラストスパート。
でも…
最後の最後に手が止まってしまう。

「…また、締めんトコ?」

キーボードの音が独奏になったことに、課長が気付く。
実は、私はまとめが苦手で、いつも時間がかかるんだ。
でもそれは、課長にはバレていたらしい。

…ギッ、カツカツカツ

こちらへ向かって来る課長に、

「やだ、苦手なの、知ってらしたんですか?」

と言ったら、ぷっ!と吹き出された。

「澤井、そんな情けない顔しないの!
どれ、見せてみ?」

「…っ!」

ヤバイ!
珍しい課長の破顔した瞬間に、心臓が跳ねる。
でも、どんな情けない顔してたかと恥ずかしくなって、内心はパニック。
更に、私の体をかすめるほど近く、課長の腕がデスクに手を突いた。
ふわっと渋いタバコの香り。
絶対、私、顔真っ赤!!


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