第三話――魔人と死神と皇国の聖女-9
「いや、彼らも彼らで、隠す気があるかも疑わしかったので、つい……。普通、刺客に、コチラが一度でも会ったことのある可能性のある者を使いますか?」
「それでも、言ってやらないのが優しさってもんよ、魔人さまー」
パンが、主人へと冷めた視線を送った。
……どうも、彼らには、刺客に襲われたばかりという危機感といったものが微塵も感じられないのだが。
アリスは、密かにあきれた。
「……それで、後はゲルハルトやパトリシアの言ったような――そんな顛末です」
「それで、パスクさん。これから、どうなさるおつもりですか?」
「ですからっ!断固、糾弾するべきです!味方に、しかも、『聖人』に刺客など……貴族にあるまじき下劣にして、排斥されるべき愚劣な行為です!」
初めの、どこか緊張感のない穏やかな声がエレナ、続く感情的な叫びがフィルの発したものだ。
そこへ、第三の声――エレナの親衛隊長であるマデリーンが口を挟んだ。
「ですが、フィル王女。ここは、今件を隠そうとした魔人の策に賛同するしかないでしょうな」
「マデリーン殿!『丹色の銀星』ともあろう、あなたをして、なんと弱気な……」
「そう言いますがね。フィル王女、よろしいですか?私らは、わずかなりともゴルドキウスとの戦闘経験があります。彼奴らは――それこそ、魔人には言わずもがなだろうが――、姑息で、したたかで、勝利に貪欲です。勝者の椅子に座るために、平気で名誉や善性を棄て去ります。そんな者共を相手に、このような、まるで三本頭の竜のような体勢で挑めば、敵の思う壺でしょう」
「…………」
フィルが絶句した。
それもそうだろう、数日前での軍議でだ。パスクが、対ゴルドキウス――リンクス王国奪還作戦の企画会議の中で、言った――