第三話――魔人と死神と皇国の聖女-8
「ご存知の通り、本日、ユニコーン皇国の要請で『聖女』である私と『聖人』であるパスク公は、演習中のユニコーン第一聖騎士団を視察に向かいました。山を一つ、迂回するだけですから、半日の行程です」
それは、アリスも知っていた。
『ユニコーンの聖女』ハーティはフィル姫と親交があり、その繋がりで(悪名ながらも)高名な魔導師であり『聖人』であるパスクに、自国の演習の視察を望んだのだ。
一角獣の国において『聖騎士』というのは、リンクス王国の称号的な位ではなく、近衛隊所属の魔導騎士団を指している。つまり、同じ魔導師であるパスクは、彼らにとっては他の『聖人』以上に親近感を覚え、モチベーションが上がることだろう――という、ことだ。
フィル姫は、誰も疑問を上げないのを確認すると、続けた。
「視察自体は上々でした。予想以上にパスク公の人気も高く、昼食を共にしたほどです。問題は――その、帰り道でした。当然ですが、来た道を戻り、このリンドブルへ向かっている道中、我々を乗せた馬車は桑林を通り抜けようとしました。その時、突如、パスク公の『聖獣』――パン殿が声を上げまして……」
フィルが足元で、欠伸でも我慢しているのだろう、口をムズムズと動かすパンへ目を向けた。
その視線に気付いたのか、パンは億劫そうに彼女の言葉を引き継いだ。
「んっ、ああ。ホラ、私ってリンクスだから……危険察知能力ってのがあるのよ。この、お嬢ちゃんの子馬――もとい、グレンが天気を読めるようにね。んで、まあ、その林に十人ほどの、それなりの手練が隠れているってわかったってわけ」
「そこで、私たちは迎え撃とうと馬車を降りたのです。刺客も、奇襲に失敗したと気づくとすぐに姿を現しました。おそらく、失敗はしてもパスク公にプレッシャーをかけられれば、とでも思ったのでしょう。しかし、そこで――さきほど、パスク公の部下らも言っていましたが――」
「相手の所属を見破ってしまった……ってわけですか」
エレナのセリフに、パスクが申し訳無さそうに頭をかいた。