第三話――魔人と死神と皇国の聖女-7
「……。来い、バカ共。仕置いてやる」
むんず、と小隊長は部下ふたりの纏うローブの襟首を左右の手で掴むと扉へと向かった。
「へ?ちょ、ジーンさんっ?あれ、なにこれ?きゃあっ」
「ちょ、待っ――悪いのはパトリシアで、ホント、一度、深呼吸、待って……」
そこで扉がパタン、と閉められた。
あのふたりのあわてぶりからして、この後には相当の地獄が待ち受けているのだろう。
自業自得だとはわかっていながらも、アリスは彼らの冥福を祈るしかなかった。
十秒ほど、沈黙が訪れる。
それをなんとか押しのけるようにエレナが重たい口を開いた。
「あの……大体の事情は思いがけもなく察することができたのですが――パスクさん?本当に襲撃されたのですか?フェニックスの刺客に」
「ええ、と……」
パスクが、誰もいない部屋の隅に目を向け、頬を指でかいた。その額からは脂汗が垂れている。
すでに、もう誤魔化しの仕様がないのだが、それでも白状しないあたり、パスクは存外、頑固なようだ。
けれど、ここまで追い込められれば仕方がない、とでも思ったのだろう、彼の背後から、その隣へと移動していた『ペガススの聖女』フィル姫が、パスクに代わって口を割った。
「……ハァ。パスク公、コレ以上は無理でしょう。そもそも、皆、反対していたのです。なぜ、被害者たるパスク公が泣き寝入りしなければならないのですか?」
「フィル姫……何度も申し上げたでしょう?ここで、いざこざを起こせば、聖獣八ヶ国はゴルドキウスに飲み込まれます。彼の大国は、その強大な軍事力以上に、情報操作と策謀を得意としているのですからね」
パスクが肩をすくめた。ようやく、観念したようだ。
フィルは「それでも、です」とパスクを非難するように見つめると、エレナやアリスたちへと視線をもどした。ゆっくりと、話しはじめる。