第三話――魔人と死神と皇国の聖女-54
「はははっ。ですがね……それとは、また別の次元での理由もあったわけなんです」
「別の、理由?」
「はい。どうしても、帝国を――皇帝ビルヒッドU世を、玉座から排斥しなければなりません」
「……聞いてよいのかわからないし、もし、イヤなら答えてくれなくても構わないのだが……なにがあったんだ?」
一層、不安げな眼差しのアリスへ、パスクは微笑みかけて安心させてやる。
彼女――というか、聖獣八ヶ国にも関係のある話しではあるが……、どうせ、この時点で公表したところで、混乱を招くだけだ。
アリスに、そんな不安定な心情を覚えさせたくはない。
だから、必要な――根幹の部分だけ教えた。これは、アルフォンシーヌへ言ったことでもある。
「私の導師、ベルゼル・アイントベルグと、その伴侶、リーズロッテ・アイントベルグを殺したのは――帝国、そして、皇帝ビルヒッドU世なんです」
「なっ」
「両導師を含む八人の魔導師の失踪は、帝国軍部が関係していました。触れてはいけない、遺跡の、最深部を垣間見てしまったから……」
パスクは、その切れ長の、酷薄そうな印象を受ける双眸を、極めて鋭くさせて天蓋を睨んだ。
翌朝、朝食の席に向かったパスクとアリスに、とんでもない一報がもたらされた。
『ゴルドキウスの死神』――アルフォンシーヌ・ゴーンが、忽然と牢の中から消えたというのだ。
パスクは、無意識のうちにギュッと己の長杖を握り締めた。