第三話――魔人と死神と皇国の聖女-53
「んっふぅ……ちゅる……むぅっ……」
アリスが上になり、舌を絡ませて、ジュルジュル、と淫靡な音を響かせる。
それも十分に堪能できたのだろうか、アリスが唇を離すとパスクの隣に横になってきた。
パスクの身体に腕といわず、足といわず絡ませてくる。
そのくせのあるブラウンの長髪から、女性らしい、芳潤な香りが鼻腔をくすぐった。
「……なぁ、パスク?」
「はい?」
いささか、真剣な表情でアリスが見つめてきた。
見ると、その鳶色の瞳が揺れている。
「答えてくれなくてもいい。けど、私は、できれば知りたい……『死神』――アルフォンシーヌ・ゴーンとは、なにを話していたんだ?」
不安げな、しかし、その不安を誤解させまい気丈な顔付きでアリスが訊ねてきた。
……コレは、答えないわけにはいくまい。もちろん、すべてを話すことなどはできないが。
パスクは、アリスの髪を指で梳いた。この感触が、パスクは大好きなのだ。
「……彼女、私の先輩なのですよ。しかも、私の導師と彼女の導師が結婚していましてね?だから、まあ、なんというか……親交はありましたが、それは、どちらかといえば好敵手のような関係でして。私と彼女が、というよりは教室同士が――と言ったほうが適切でしょう」
「ジーンたちもか?」
「ええ。それどころか、ジーンなど、その筆頭でしたよ。彼女――アルフォンシーヌの弟弟子としょっちゅう諍いを起こしては導師たちに怒られていました。んま、そんな仲でしたからね、前回の――アムシエル砦で会った際には、彼女は相当の剣幕でした。なぜ、帝国を裏切ったのかっ?……とね?その時は、愛する女性のためだ、と答えましたよ、正直に。本気で怒っていました」
「それは……そうだろう。きっと、同僚がそんなことを言いだしたら、私だって斬る」