第三話――魔人と死神と皇国の聖女-5
「あ、あはっ♪」
注目を一身に集めたゲルハルトは硬い笑みを浮かべた。
そんな彼へ、なぜか交友関係を築き、ことあるたびに時間を共にしているマデリーンが男らしい微笑で訊ねる。
……アリスは上司のその笑みに雄獅子の威嚇を幻視した。
「うん?ゲルハルト?なにが、やべっ、というのだ?んんっ?一つ、ここは言ってみろ」
失態を誤魔化しきれない笑顔を称えたまま、ゲルハルトの額に玉のような汗が浮かんだ。
それほどマデリーンの視線は攻撃的なのだろう。彼女の視線を直接受ける位置に立っていなかった幸運にアリスは密かに感謝した。
ゲルハルトへ、わけもわからず絶対の優位性を保持しているマデリーンだ、この群青色の髪の(ある意味で)好青年の自白は、時間の問題だと思われた。
しかし、その予想をしたのはアリスだけではなかったようだ。
ジーンの背後に立った赤髪の女魔導師パトリシア・ミラーが、腰から短杖を抜くと、その先端を隣に立つゲルハルトへと向ける。
「ゲルフ。……余計なことを少しでも言ってみなさい?腐らせるわよ?」
吊り目に糸眉という、極めて攻撃的な紅蓮の瞳を爛々と光らせてパトリシアは告げた。
そういえば、彼女は大陸中でも使い手の少ない『腐食』の魔法を得意としているのだと聞いている。以前、アムシエル砦では鉄柵を腐らせていた。
焦ったのは、そんな非人道的な宣告を受けたゲルハルトだ。悲鳴のような叫びを上げる。
「くさっ?――ど、どこをだよっ!?」
「どこって……んふっ♪」
「くぅ……この女。なんて、邪悪な笑みを浮かべるんだっ!つまり、アレかっ?アレだな?アレの、アソコと、間のソレだよなっ!?」
「さぁ〜あ?あれってドコかはわからないけど……んまあ、アレよね?」
「やっ、やってみろ!この厚化粧ドブス!腐らされる前に体の芯まで凍らせてやる!」
ゲルハルトも杖を抜く。
自身に向けられた杖と交差させるようにパトリシアへと構えた。
一触即発――だが、そんな若者たちを同じく若き上司は止めた。