第三話――魔人と死神と皇国の聖女-39
「…………パスク……ずるいぞ」
唇を尖らせて睨んでくるアリス。
だが、その頬は紅潮しているため、余計にパスクを感激させる効果しかなかった。
パスクも、グラスを空けると微笑んだ。
「言ったでしょう、アリスさん?怒ってくれるだけで、十分です。それに、私の予感は、ただの杞憂に終わるかもしれませんし、明日からは私も気を張りますから。『死神』は、その任務内容ゆえか、単独行動を好みますし、助けなり刺客なりが来るとしても二、三日はかかるでしょう」
「パスク……なぜ、そこまでするのだ?あんなに嫌われているにも関わらず」
「決まっているでしょう?アリスさんが、この軍勢に属しているからです」
「くぅ…………」
アリスが、真っ赤になった。照れ隠しのためか、手酌で己のグラスに酒を注ぐと、また、一息で空にする。
パスクは、口角がつりあがりそうになるのを必死で自制した。
……可愛すぎるのだ、彼女は。
しかし、別に、アリスのこの顔を見たくて言った詭弁ではない。本心である。
――いや、もちろん、彼女のこういった反応を期待してもいたが。
パスクは、腰を浮かすとアリスを抱き寄せた。
アリスが驚いて、その吊り気味の双眸を見開かせたが、構わず、唇を重ねる。
「ふぅっ、むぅ?……ん、んっ、ちゅ…………」
一瞬、唇をキュッと力ませたアリスだったが、すぐに力を抜いた。
パスクは、己の舌をねじ込むように彼女の口内へと侵入させる。
自分よりも、すこし体温が高いのか、アリスの口の中は温かかった。
前歯をなぞり、上の歯茎をなぞり、下の歯茎もなぞると、最後にそのうねねく柔らかなモノへと己のを絡ませる。
葡萄酒のためだろう、酒気と酸味と、わずかな甘みが味覚を刺激した。
そして、なんと表現すればよいのかはわからないが、決して嫌な気分にはならないアリスの唾液も、また、味覚を刺激する。
接吻中のため、鼻で息をしなければならず、アリスの荒くなり始めた鼻息がパスクの顔を撫でた。