第三話――魔人と死神と皇国の聖女-37
「アリス。アンタも、いろいろ聞きたいでしょう。でも、どんなに詰問されようが、私には答えることはできない。聞きたいんだったら、パスクに直接聞いて。案外、アリス相手なら、あのバカ主、ペラペラ口にするかもしれないし……」
尾まで垂れ下げ、身体全体で脱力を表すパン。
――それほど、秘匿しなければならない内容なのだろうが、そんなことを、なぜ、敵である『死神』へ話題にしたのだろうか?
パスクを疑う気などは微塵もない。けれど、アリスは単純に疑問に思った。
そこまで思考を纏め、顔を上げた時だ、パスクへと駆けよる集団を視界に捉える。
一瞬、敵かとも思ったが、パンの危機察知能力に引っかからなかったのだ――、とよく目を凝らせば、それはマデリーンだった。
赤髪の女騎士に引きずられるように、襟を掴まれて連行されるゲルハルトもいる。どこかで合流できたのだろう、『聖騎士』セザールも一緒だ。
上司の登場に、今晩の騒動が収束する予感をアリスは覚えた。
「――おや?起きていたのですか?」
パスクが自分に宛がわれた寝室の扉を開くと、室内で愛しき『女聖騎士』――アリス・バハムントが、懇談会で着ていたドレス姿のまま、ひとり、ナイトテーブルに肘をついていた。
この、竜の国の宮殿ヴィーヴルに着いてからは、自分とアリスはそれぞれの寝室を用意されている。
……つまり、ここまでの道中はずっと、同室だったのだが。
それでも、まあ、そういう関係を持つため、アリスがこの部屋に訪れることも、しばしばあったし、自分から誘うこともあった。
だから、別段、彼女はこの部屋にいることには問題はないのだが……。
「ん?……ああ。すでに夜も遅いし、今回の一件の報告も手短に終わると思って、な。随分とかかったようだな?」
「ええ。報告自体は無事に済んだのですがね。捕縛したアルフォンシーヌ・ゴーン――『ゴルドキウスの死神』の処遇について少々、問答になってしまい……。お待たせしてしまって、申し訳ありません」