第三話――魔人と死神と皇国の聖女-36
「にゃ、にゃンでっ?――あっ、ルード、そうか!こんの出歯亀一角獣!」
「出歯亀一角獣――それは、亀か馬か……」
「ひとのセリフに、いちいち上げ足をとるんじゃないわよ!」
パンが、その真っ赤な毛色の前足でルードの背中を叩いた。
しかし、さほど痛くないのだろう、ルードは大した反応を見せない。
そんな『聖獣』たちを目に、アリスは首を傾げた。
「……どうしたというんだ、一体?」
「た、多分、ルードの……ユニコーンとしての能力だと思います……」
すると、一角獣の主人――ハーティが答えてくれた。
「ルードは、その、乙女と心を通わせることができるんです。つまり、心を読める……」
「お、乙女?」
「はい。穢れなき、お、乙女……」
ハーティがそこで赤面し、俯いた。
アリスも、この少女が言わんとする内容を、そこはかとなく察する。
「ああっ、もおー!なんで『死神』が処女なのっ?名が泣くってのよ!地位もあるんだから、美少年でも侍らせなさいよ!漁れ!漁れえええッ!」
だが、パンは、そんな少女の心情を把握できていないのだろう、直接的な言葉で呪詛を吐きだす。
ハーティは可愛そうに、とうとう、髪で顔を隠れるほど顔を伏せてしまった。
「……いや、まあ……その、経験の有無はともかく――ルードの口にした言葉は、彼女の思ったこと、でいいのか?」
「そうよ!ったく、コイツのこのクソったれな能力の判定に引っかかるなんて……」
パンが、重たげな溜め息を吐いた。
そして、諦念を抱いたのだろう、悟ったような口調で続ける。